202号室の、お兄さん☆【完】

今度は、千景ちゃんは何も言いませんでした。
表情も見えないから分かりません。



「岳理さんは、分からないからき、嫌いです。
怖いと思ったら、本当は優しかったり、
『忘れ物』とか変な事言って来たり、だ、抱きしめてくれたり」

煙草の苦い匂い、
車を運転する長い指、

照れ隠しで舌打ちする、不器用さ。



「岳理さんがと、隣に居ると、私、く……苦しいんです。
苦しくて、苦くて、胸がギュウッと締め付けられて、
い……息が吸えないぐらい苦しくなるんです」

この気持ちの名前は……、
あの夜の階段に落としてきました。

だから、永遠に分かりません。



「ば、バズーカ砲で壊すって言ってきたのに、き、今日は、お、お兄さんのプロポーズを前向きにって言って……」

――自分から近づいて来たのに、
見守る位置まで遠ざかって行きました。


私には近づけない距離へ、逃げて行きました。




「お、お兄さんが好きです! ま、守ってあげたいです。




でも、でも胸が苦しいんです」


涙も止まりません。
び、病院で薬が貰えるなら欲しいです。

誰でも良いから、
この胸の痛みを止めて欲しいです。
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