202号室の、お兄さん☆【完】
「紙鑢を、ですか?」

すると、葉瀬川さんは適当に頷いて、部屋を指差した。

「鍋の君は、部屋にある漫画を2階に持って上がってくれ。バイト代は出すよ」

「はぁ?」

「手塚治虫先生の絶版になったタイトルの、初版を手に入れたんだが、日焼けが酷くてね。触りたくないんだよ」

そう言って、案内されたので、促されるまま、103号室の玄関に上がる。

103号室は、黒い革のソファーと、小さな丸いテーブル以外、壁は全て本棚で埋め尽くされていた。

玄関には、段ボールに入れられた漫画が。

そして本棚の中身も、全て漫画。小さなテーブルには読みかけの漫画に栞が挟んであった。


「漫画は素晴らしいよ。字と絵だけで、世界が生まれる」

葉瀬川さんは、本棚から漫画を取り出した。
それは、リアルな描写が問題となり絶版になった有名な漫画だった。


「これは、実に面白くない」

「はぁ!?」

「心情がリアルすぎるんだ。アンハッピーエンドの話なんて、つまらない。生きる事の辛さや悲しみが溢れている。生とは何かを考える作品だ。面白くなくて当然だ」
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