202号室の、お兄さん☆【完】
ぽたぽたと、冷たい石の階段に汗が染み込んでいきます。
この人は、どこまで私を探しに行ったのでしょうか?
この人は、どれほど私を心配してくれたのでしょうか?
今なら、私だけでも倒せそうな程に、フラフラで情けない悪役です。
「人がど……んだけ心配したか」
っち、と舌打ちすると、顔だけを此方に向けました。
「……私の気持ちを、『彼女のふりして貰った』人と、同じ扱いするからですよ」
「おまえ……」
「私は『おまえ』じゃないです」
そう言って、――私は岳理さんの顔を見つめました。
「こんな気持ちのまま、結婚を前提にお付き合いするのは、
とても、不誠実だと思うんです」
「……」
「わ、私、私も岳理さんの良い所、いっぱい知ってますよ。
お兄さんには優しいし、無口だけど、それは傷つけたくないからだし、――不器用なのは周りに気を使って一歩引いちゃうからだし、」
胸がきゅうぅぅッと痛み出しました。
「こうやって、自分に彼女ができたふりをすれば、私とお兄さんが無事に付き合うだろうって、
悪役になってくれようとして」
私、逃げてました。
でも、本当は分かってたんです。
この胸の痛みが、『恋』だってことは。