202号室の、お兄さん☆【完】
花忘荘に到着すると、皆さん電気が点いていました。
降りようと思った私の手は、まだ繋がったままです。
「では、……お休みなさい。
あの、もしお兄さんがまた暴れたら」
「ああ。連絡する」
「あの、」
「ああ。
もう少し、だけ」
車の中で、ただ何を会話するでもなく、お互いの手の温もりを感じていました。
煙草の香り、
お風呂上がりのシャンプーの香り、
夜の風が窓に当たる、音、
車のエンジン音。
全てが、私に、今日の事は夢じゃなかったのだと教えてくれます。
「では、明日」
「ばぁさんが鳴海に会いに来るんなら、お前迎えに行こうか?」
そう言われて、軽く頷きました。
「あの、午前中は大学なので連絡します」
「着信拒否、解除しとけよ」
そう言われ、降り立った後、名残惜しげに手を離されました。
車は、私が部屋に入るまでずっと留まったままでしたが、入るとすぐに発進して行きました。
私もドアを背に、ズルズルと座り込んで息を吐き出します。
やっぱり、人を好きになるって、苦しいし、胸が痛いし、
体は熱く、なるから、
この先、慣れるのか心配です。