202号室の、お兄さん☆【完】
一歩、屋敷を出れば参道は、参拝客や観光客の賑やかな声がします。
そんな賑やかな音を、庭の砂利道を歩きかき消しながら、切り取られた静寂に包まれた空間で2人、泳ぐ鯉を眺めていました。
「あの、お兄さんは……」
「ふふふ。先日お話した昔話の続きなのですよ」
そう言って、麗子さんの視線の先には、サボテンの温室がありました。
中には、お兄さんがおばけサボテンを見ながら、電話をしています。
「私、ずっと気になってましたの。夫が花忘荘に何故、鳴海さん達を囲っていたのか。
鳴海さんのお母さまは何故、夫の子だと強気だったのか。
だってDNA検査もして良いって言ってたんですもの」
そう言って、袖口から一枚の写真を取り出しました。
「『有栖川 巽海(ありすがわ たつみ)』。夫の年の離れた、弟ですの」
その写真には、お兄さんによく似た男の人が赤ちゃんを抱っこしていました。
「夫が生前、ずっと気にかけていたのですが、周囲の反対を押し切り海外に飛び出したの。
飛び出した年と、鳴海さんが生まれた年が重なりましてね。
ふふふ、世界中を逃げるから追いかけっこに疲れましたわ」
そう言って、また池の鯉に目をやりました。
「やっと、私(わたくし)は自由になれました」