202号室の、お兄さん☆【完】
「――そうですか」
麗子さんは、座ったまま此方を向いたかと思うとすぅっと笑顔を消して、
「では、どうかお願い致します」
地面に手をつき、深々と頭を下げてきました。
ど、土下座せん勢いです。
「麗子さん! 止めて下さい! 私なんかに土下座なんて!!」
私が大声を出して麗子さんの肩を抱き起こすと、縁側から様子を窺っていた岳理さんが降りて来ました。
「お願い致します。巽海さんが、鳴海さんの赤ん坊の時の写真を大事に持っているのを見て、私、嬉しくて、嬉しくて……」
「麗子さん……」
「親の愛を、家族の愛を、鳴海さんはやっと、知ることができるんです。ちゃんと鳴海さんは愛されていたんです。
――私はそれを鳴海さんに感じて欲しいんですの。歪んだ愛だけが、全てじゃないって」
必死で、目に涙を溜めて懇願する麗子さんに言葉を詰まらせていると、隣に岳理さんがやって来ました。
「まずは、鳴海の気持ちを聞いてからじゃないですか?」
「岳理さん……」
「岸六田さんが、鳴海をどれだけ大切に思っているか知ってます。
だが、みかどを誘うかは鳴海が決める事だ。
いや、鳴海に決めさせてやって欲しい」
そう言って、辛そうに顔を歪ませました。