202号室の、お兄さん☆【完】
私と千景ちゃんがオニギリを握る中、
花忘荘の庭では、賑やかな声が聞こえてきました。
「ひぃぃ! カエルが! カエルが出たぞ」
「ドラガン君、レンガも持ち上げてごらん。だんご虫がいるよ」
「なんと!!」
「で、皇汰くんは彼女とか居ないの?」
「――別れた!!」
「何で?」
「追いかけたい人ができたから!」
「おい、鳴海、これ見ろよ」
「わぁ! ドクダミとよもぎですね。ドクダミは乾かしてお茶にして、よもぎは……」
花忘荘の方々は、今日も賑やかで楽しそうです。
明日が、お兄さんの出発の日でも。
きっと花忘荘の皆さんは変わることなく、楽しく生活していくのです。
「千景さん、みかどさん、オードブル持って来ましたけれど?」
涼しげな蒼い着物の麗子さんと、お節料理みたいな何段もある重箱を持った運転手さんが現れました。
「ホテルの方に作って頂いたのよ。『TATSUMI ARISUGAWA』監修の有名オードブルよ」
その中身は、唐揚げやら玉子焼きにハンバーグやら、小さな子どもが好きなメニューがいっぱい入っていました。
「お兄さんが喜びそうですね」
もしかしたら、有栖川さんは、日本に居るお兄さんを想いながら料理を作っていたのかもしれません。