202号室の、お兄さん☆【完】
「岳リン、遅刻だから今日は岳リンの奢りねー」
動じない葉瀬川さんは、ゆるりとそう言うが、岳リンさんは葉瀬川さんを見ない。
「お、前、さっきは…はぁっはぁっ よく、も」
流れる汗を拭いながら、前屈みで息を吐く。でも、視線が怖い。
「お詫、びに、はぁっちょっと、つき、あえ……」
そう睨まれ、手にしていた植物図鑑を持って固まってしまう。
「岳リン、はぁはぁ気持ち悪いねー。君、逃げなさいよ」
「ちょっ おじさん!」
まだ息を切らしていた人は、葉瀬川さんに怒鳴ると、こちらを睨んできた。
そして、一歩、一歩、近いてくる。
伸ばされた大きな手が、怖い。
「きゃああああっ」
ドサッと植物図鑑を投げつけると、私は本日2回目の猛ダッシュ!!!
「おお、逃げろー逃げろー。
お店の店員さーん、ここにストーカーが居ますよー」
遅刻された葉瀬川さんは、実は怒っていたらしく、謝りもしない岳リンさんに空気の読めない意地悪をしてくれた。
おかげで私は逃げ出せた。
……あの植物図鑑、ちょっと欲しかったのにな。