202号室の、お兄さん☆【完】

店員さんが、岳リンさんの顔を覗き、恐る恐る尋ねた。
「孔礼寺さん?」

岳リンさんは、まだふらつきながらも、頷いて立ち上がる。


「店長、僕の家、この人の寺の檀家なんですよ」
「よく紙鑢を注文するから身元も分かります。良い人ですよ」
お店の人たちから庇われ、店長らしき人が、警察に通報しようとしていた手を止める。



「金輪際、僕と姉に近づくのを止めてくれたら、僕も遣りすぎたし良いです」

そう言って、岳リンさんを睨みつけると、ふらつく岳リンさんは胸元から携帯と紙袋を取り出した。

そして、皇汰に押し付け、店員さん達に頭を下げた。


「後日、きちんと謝罪に来ます。すみませんでした」

そして、此方をチラリと見たが、すぐに逸らして去って行った。


私と皇汰は、岳リンさんが突っ込んで崩壊させた棚の品を並び直すのを手伝って、帰路に着いた。



「何、話してたの? あの人と」
「――姉ちゃんには関係無いよ」

そう言って、花忘荘に着くまで無言だった。


「その紙袋の中身、何?」

私が尋ねると、乱暴に皇汰は破いた。

そして、不機嫌そうに渡してくれたのは、


植物図鑑。





本屋で、私が投げつけた物だった。
< 63 / 574 >

この作品をシェア

pagetop