202号室の、お兄さん☆【完】
――15分後、きちんと玄関に下駄が脱いでいました。
土下座する外人さんを、睨みつける千景ちゃんの姿も。
「本当にすまなかった。浮かれてちょっと飲みすぎたわい」
「ちょっとじゃありません。毎回毎回、本っっっ当にウザい」
ぷいっとそっぽを向いた千景ちゃんは、そのままテレビをつけてドラマを見始めた。
私とお兄さんは、ご飯のお礼にお皿を洗っていたが、洗い終わり、そそくさと帰る準備をする。
「この日本文化オタクも引き取って」
気づいた千景ちゃんにそう言われ、断ることなどできなかった……。
「拙者、ドラガン・フリードマン。生粋のイタリア人でござりまする。
好きな漢字は『六波羅探題』。好きなお寺は竜安寺。
駅前のビルで英会話教師を、月2回インターナショナル・スクールに日本文化を教えておる29歳、華の独身じゃ」
一緒に二階に上がりながら、酔いが覚めたドラガンさんが自己紹介をしてくれた。
「もう酔うまで飲んだら駄目ですよ?」
お兄さんが優しく労るように言うが、ドラガンさんは瞳を輝かせて首を振った。
「『長き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り船の音の良きかな』じゃ」