202号室の、お兄さん☆【完】
「と、言っても私も、おばあちゃんから詳しくは聞けてないのよね」
ペットボトルのお茶を、指でつつきながら、千景ちゃんは言った。
「おばあちゃん、今世界一周の旅に出かけてるけど、ずーっと鳴海さんの事ばっかり気にしてたのよね。
『孔礼寺の息子とは会わせるな』『過去を思い出させようとはするな』」
そして、ゆっくりと私を見つめた。
「『土曜日と日曜日は、部屋を覗くな』って」
ゆっくり、喉を飲み込む自分が居た。知りたくて、知りたくなかった事。
「昔、鳴海さんと母親と、鳴海さんの姉が、あの六畳に住んでたらしいわよ。鳴海さんが小さな頃ね」
あのボロボロな花忘荘に、三人で……?
「その時に、……色々あって記憶が無くなったというか、全部忘れて、今みたいな骨の無い優しいだけが取り柄みたいな鳴海さんになったらしいんだけど」
……毒を吐きながらも、千景ちゃんは笑いもしなかった。
「大学一年の時に、フラッシュバックが起こったんで、一年休学して、岳理さんとは関わらないようにしたみたい」
そう言って溜め息を吐いた。
「私が教えられるのは此処まで、かな」