202号室の、お兄さん☆【完】
「痛い……」
おでこをすりすりするが、千景ちゃんは鬼の形相で私を睨んでいる。
「ばっかー!! そーゆーヤツこそ話してよー! 岳理さんとかまじ得体の知れない要注意人物だよ」
「だ、だから、会ってみようかなって。お兄さんに、近づくのに深い訳があるなら聞いてみたいし、聞きたい事もあるし」
「ねぇ、」
いつしか話に夢中になっていたのか、雨が止んでいるのに私たちは気づいていなかった。
「それって、みかどの『お父さん』に関係あるの?」
千景ちゃんは、『楠木教授の子どもをー……』と言った岳リンさんの言葉を覚えてたんだ。
「うん。いつまでも、居ない人の影に怯えちゃ駄目だから、頑張ってみる」
と言っても、長年父が正しいと刷り込まれて生きてきたから、突き放された今、まだ現実を上手く直視できて居ないんだけどね……。
「あんま、頑張りすぎないでね。いつでも相談のるよ」
そう言った千景ちゃんは、後ろを振り返り、食堂の壁の時計を確認した。
「4時30分から夜メニューが食べれるのよー。食べて帰ろー」
そう言って、手を引っ張られて立たされた。