キミ、カミ、ヒコーキ
「ねぇ、君は名前なんて言うんだ?」


「あたし……あたしの名前は――」


プシュー。


ちょうど言おうとした時、タイミング悪くバスが到着してしまった。並んでいたのは男だけだった。


「あっ、来ちゃった」

男が財布を広げ、バスに乗り込もうとした。あたしは早くなる鼓動をギュッと掴み、言った。


「2年A組の石崎だ!」

男が小銭を投下口に投げいれる。そしてゆっくりあたしの方を振り向いた時には、バスのドアは完全に閉まっていた。


だけど口パクで確かにそう聞こえたんだ。



「また、ね」って。




バスが吐く排気に埋もれ、あたしはその名残を体に染み込ませた。

今日自分の決めごとを一つ、破ってしまった。


「なんだよ……あいつ」



きっと後悔するに決まってるのに。誰かを好きになったって。


だけどホラ、このおさまりのない鼓動の発信源が『恋心』だって事、認めざるをえないよ。分かってる。




あの時と全く同じ感覚なんだから。
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