キミ、カミ、ヒコーキ
土曜日。今日は昼から焼き鳥屋さんでバイトがある。


まだ朝の5時半なのにあたしは居間でイライラしていた。無理もない。あんなうるさいご帰宅、ガキでもしない。


二カ月ぶりに、お母さんが帰ってきたんだ。


「信子ぉ。なんか食べるもんないのぉ? ママお腹空いちゃったーキャハハハ」


お母さんが両足をジタバタさせながらあたしに食事をせがんだ。

あたしは無視して、洗濯物をたたみ始めた。


「ねーえー。飯だよ飯。ほら、これやるからさぁ」


あたしの足元に紙きれが一枚、ゆらりと落ちた。諭吉があたしを見て笑ってる。



「なんか買ってきてよー。ねっ、信子ちゃー……」

「ざけんなよ……」


あー畜生、頭がぐらぐらする。


もう無理、限界。


「何よ急に、いいじゃない。何? あともう一万欲しい?」

「ふざけんじゃねえよ!」



気づいた時にはあたし、近くにあったガラスのコップを壁に投げつけてたんだ。


その騒ぎでおばあちゃんが目を覚まして、お母さんはあたしを指差し、ケラケラ狂ったように笑ってた。



テーブルの上には、色あせた林檎のかけら。


そう、あの林檎みたいに一度変わってしまったらもう戻れないんだ。



あたしもあいつも何もかも。
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