キミ、カミ、ヒコーキ
『まっ、待ちなさい』



席を離れるあたしの背中に、怯える東先生の声。


本当は待って欲しくなんかないくせに。さっさとどっかに行ってほしいくせに。

嘘が染み込んだそんな言葉で、あたしが振り返ると思う?


「先生」

あたしは先生に背を向けたまま言った。

「石崎さん……」


「腹いたいんで、保健室行ってきます」


教室内は気持ち悪いくらいに静まり返っていて、あいつの泣き声だけがしとしと雨粒みたいに耳に入る。


あたしは家庭科室のドアを叩きつけるように閉め、保健室とは真逆の、西校舎二階へ向かった。
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