ありがとうのその前に
『お母さんッ!』
あたしは後ろ姿の母に抱き着いた
母は目に涙を浮かべながら微笑んでいた
そしてあたしと母は2人で初めて向かい合った
机には湯気の出ているココアが2つ置いてある
『あたし…ほんとはいらない子なんだって思ってた…』
そう言うと母は辛そうな顔をした
『お母さんは母親失格ね…琴音やヒロと向かい合うのが怖くて逃げてたの…。最初はただ不自由させまいと必死で働いてただけだったわ』
あたしが物心ついたころにはほとんど家にいなかった母
『でも参観日にも行けなくて、琴音がだんだん冷めた目をしていたのに気付いた…でもお母さん何もしてやれなくて…ゴメンね…』
『あたしもワガママ言えばよかったよね…言っても無駄だって決めつけて向き合わなかった…』
いつしか2人の目にはまた光る粒が溢れていた
『今からでも…遅くないよね?』
母は首を縦に振って微笑んだ
『ままぁ?』
ヒロが母の膝に手をついて笑っていた
ヒロもお母さんに甘えたかったんだもんね
あたしたち3人は今まで作れなかった分、これからたくさん思い出を作ろうと決めた
夏休みには旅行に行こう
正月は一緒に過ごそう
忙しい母がそう言ってくれてあたしの心の冷たい氷が溶けた気がした