ありがとうのその前に


『ありがとう…』


翔吾のグレーの瞳から光る粒が零れていた

あたしは驚いたのと、その光る粒の綺麗さに瞬きができなかった


『こういうさ…母親がしてくれるような事…初めてされて…嬉しくて…』


翔吾はゆっくり話だした



『昔から家庭料理なんて食べたことなかった。いつも一人、冷たいご飯を食べてたんだよな…好き嫌いを叱ってくれる人もいなかった…』



あたしも母は仕事ばっかりでヒロが生まれるまでずっと一人だったから気持ちわかる


『だからさっきケーキにさ…俺が食べれるように工夫してくれてたのが嬉しくて…これが家庭のぬくもりなのかって感動したんだ』


翔吾は涙を拭った


『ほんとにありがとう…俺、今すげぇ幸せだよ』


涙を流しながら微笑む翔吾をあたしは気付いたら抱きしめていた


そしてあたしの瞳にも光る粒が…


『一人で…寂しかったよね…もう一人じゃないよ?』




なんだか放っておけなかったんだ…あの時のあなたは離したら消えてしまいそうで…ずっとずっと傍にいて欲しいって素直に思えたんだよ…



それからしばらくして翔吾は帰っていった


涙は流していない


満面の笑みで大きく手を振って

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