ありがとうのその前に
『いつもは琴音が幼稚園に来るたびバレたくなくて隠れてた。でも…』
『でも?』
『あの日…ぶつかった日の帰りにヒロと琴音がいて、ヒロの夢の話を聞いてた琴音の悲しそうな顔を偶然見たんだ…』
ヒロが先生になりたいって言ってた時のことだ!見られてたんだ
『それで…無性に気になって…琴音になら俺の夢をわかって欲しいって、それで琴音の気持ちを楽にしてあげたいって思ったんだ…もうあんな悲しい顔はしてほしくなかった』
『翔吾…』
そんな風に思ってくれてたんだ…あたしのこと助けようとしてくれてたんだね
あたしは嬉しさのあたり込み上げてくる涙を止められなかった
冷たい翔吾の指があたしの涙を止めてくれる
そしてあたしたちの唇は静かに重なった
唇は指と違ってすごく温かい
『ありがとう…』
握りあった手
唇
あたしの涙
そして翔吾の優しさ
全部温かい