愛しい太陽
「正に王子様、は…振りだったでしょ?日本人の私たちだけが知らなくて、周辺諸国ではそんなではなかったらしいんだけど…アズィールは紳士で強引で子供っぽいところもあって…愛すべき旦那様、かな?私、サイード殿下とは…いつも美月の取り合いをしているの」
陽菜が思い出して肩を竦める。サイードとの相性がとにかく悪いのだが、子供の喧嘩に近いいがみ合いだ。
「陽菜ったらサイードを苛々させる天才なんだもん。普段から強引だけど不器用で、日本人が驚く程気障なのに言葉足らずな時もあったり…でも私に永遠の愛をくれる人ですね」
「妃殿下たちはラブラブなんですね、羨ましい」
芸人が茶化すように言うが、二人は顔を見合わせて笑うだけだ。
「ところでお二人は普段も秘書をされているんですか?」
「私は夫…アズィールの秘書を続けていますよ。私たちは英語とドイツ語、アラビア語以外は話せる言葉が違うので、お相手の使う公用語に応じて通訳にも付きますから」
「私も陽菜も陛下に付かせて頂く事もありますし、私は普段はこちらで秘書育成の講師もしています。陽菜も週二日講師に」
「妃殿下たちが講師を務める秘書学校があるんですか!?」
今や【妃殿下】である二人が講師を務めていると聞き、評論家も驚いた。
「学校、ではないです。こう見えて私も陽菜もまだ会社員ですから。自社のシャーラム支社が来年の今頃から就業開始になるので、その為の秘書育成ですね」
「妃殿下が会社員…何だか見当が付きません」
「感覚としては共働きの夫婦と変わりませんよ。私たちの会社は、アズィールが社長を務めていますから。元々、話せる事もあって秘書育成の為に転勤予定だったので」
「それがいつしか永住する事に?」
単位が家庭なのか国なのか、名称の違いでしかないと告げた陽菜に、美月は同意している。
「だけど二人揃ってなんて…驚きでしたよ。私とサイードが新婚旅行から戻ってすぐ、陽菜がアズィール義兄上と結婚って」
「史上初の王子二人が一月で立て続けに婚儀で、相手はどちらも日本人だしね?」
「電撃結婚と言われる程に短期間で決められたんでしたね」
「私は二週間くらいですよ。美月はもっと早いけど」
「プロポーズを受けるまで、日数でなら一週間…かな?最初のプロポーズは実質二日でした」
「不安なんかはありましたか?」
その問いに二人は再び顔を見合わせた。
「私も美月も当然、不安だらけで安心出来る要素なんてありませんよ。文化や一般常識が違うだけでも戸惑うのに、相手は王子様…だし?」
「そうだったね。プレゼントされた香油の意味や御印の意味とか…固有の伝統も。でもサイードもアズィール義兄上も、私たちの為に日本について学んでくれて」
「理解して受け止めてくれるのをきちんと見せてくれたり、言葉にしてくれたから…付いて行こうかなって想えた事は否定しないけど」
「お二人の話はドラマや小説になりそうですね」
「確かにロマンスではあるわね。一生に一度って感じ」
あっさりそう告げた陽菜に、美月は肩を揺らす。
「陽菜、アズィール義兄上にそう言って差し上げたらいいのに…」
「駄目」
「おや、陽菜妃殿下はアズィール殿下と愛を語らったりは?」
「アズィールは毎日毎時愛してるって言ってくれるけど、私からは余り。アラビア語では言えないけど、日本語なら平気。アズィール、愛してるからね」
「照れですか」
「調子に乗せると仕事にならないの。忙しい人だから、分刻みの予定こなさなければいけなかったり…だから奥の手にキープしておかなきゃね」
「陽菜がいないと仕事が早いのよね、早く会いたいから」
「アリーさんからもよく言われるわ、それ」
和やかに夫である王子の話をしながら、取材は終了した。特番として四時間の枠は極限までカットを押さえ、シャーラムの歴史などはしっかり盛り込まれていた。
取材から数日後、陽菜と美月の二人同時に妊娠が発覚。予定日はほぼ同日だ。およそ十ヶ月後、陽菜は男児、美月も二日後に女児を出産。
シャーラム国内は大いに沸き返って、一週間に及ぶフェスティバルが続いた。国王も頬を緩める孫の誕生に、誰よりアズィールとサイードが歓喜した。互いの愛が形を成したからだ。
「ヒナ、疲れただろう?少し眠れ」
連日のお披露目や我が子の世話で、陽菜は寝不足気味だ。それは美月にも言えるだろう。乳母は付けず、陽菜や美月が自ら我が子の世話をするのは、アズィールやサイードも賛成だ。
「ん…」
ふわりふわりと微睡み始めた陽菜を腕に包み、共に横たわる。我が子は授乳が済み、襁褓も変えた。暫く眠れるはずだ。
「俺の愛しい太陽」
「…アズィール…」
「さぁ、眠れ」
「ん…愛、してる」
何とかそれだけ呟いて、眠り落ちた陽菜。アズィールは陽菜からの不意打ちに、いつも驚きの余り硬直してしまう。
「……全くお前は…」
微苦笑し、揺り篭の我が子に目を向ける。アズィールによく似た男児…これでサイードは継承権から解放された。
「これからが大変だな」
しっかり陽菜を抱き寄せて、親子は珍しく穏やかな昼下がり、揃って微睡んだ――――。
陽菜が思い出して肩を竦める。サイードとの相性がとにかく悪いのだが、子供の喧嘩に近いいがみ合いだ。
「陽菜ったらサイードを苛々させる天才なんだもん。普段から強引だけど不器用で、日本人が驚く程気障なのに言葉足らずな時もあったり…でも私に永遠の愛をくれる人ですね」
「妃殿下たちはラブラブなんですね、羨ましい」
芸人が茶化すように言うが、二人は顔を見合わせて笑うだけだ。
「ところでお二人は普段も秘書をされているんですか?」
「私は夫…アズィールの秘書を続けていますよ。私たちは英語とドイツ語、アラビア語以外は話せる言葉が違うので、お相手の使う公用語に応じて通訳にも付きますから」
「私も陽菜も陛下に付かせて頂く事もありますし、私は普段はこちらで秘書育成の講師もしています。陽菜も週二日講師に」
「妃殿下たちが講師を務める秘書学校があるんですか!?」
今や【妃殿下】である二人が講師を務めていると聞き、評論家も驚いた。
「学校、ではないです。こう見えて私も陽菜もまだ会社員ですから。自社のシャーラム支社が来年の今頃から就業開始になるので、その為の秘書育成ですね」
「妃殿下が会社員…何だか見当が付きません」
「感覚としては共働きの夫婦と変わりませんよ。私たちの会社は、アズィールが社長を務めていますから。元々、話せる事もあって秘書育成の為に転勤予定だったので」
「それがいつしか永住する事に?」
単位が家庭なのか国なのか、名称の違いでしかないと告げた陽菜に、美月は同意している。
「だけど二人揃ってなんて…驚きでしたよ。私とサイードが新婚旅行から戻ってすぐ、陽菜がアズィール義兄上と結婚って」
「史上初の王子二人が一月で立て続けに婚儀で、相手はどちらも日本人だしね?」
「電撃結婚と言われる程に短期間で決められたんでしたね」
「私は二週間くらいですよ。美月はもっと早いけど」
「プロポーズを受けるまで、日数でなら一週間…かな?最初のプロポーズは実質二日でした」
「不安なんかはありましたか?」
その問いに二人は再び顔を見合わせた。
「私も美月も当然、不安だらけで安心出来る要素なんてありませんよ。文化や一般常識が違うだけでも戸惑うのに、相手は王子様…だし?」
「そうだったね。プレゼントされた香油の意味や御印の意味とか…固有の伝統も。でもサイードもアズィール義兄上も、私たちの為に日本について学んでくれて」
「理解して受け止めてくれるのをきちんと見せてくれたり、言葉にしてくれたから…付いて行こうかなって想えた事は否定しないけど」
「お二人の話はドラマや小説になりそうですね」
「確かにロマンスではあるわね。一生に一度って感じ」
あっさりそう告げた陽菜に、美月は肩を揺らす。
「陽菜、アズィール義兄上にそう言って差し上げたらいいのに…」
「駄目」
「おや、陽菜妃殿下はアズィール殿下と愛を語らったりは?」
「アズィールは毎日毎時愛してるって言ってくれるけど、私からは余り。アラビア語では言えないけど、日本語なら平気。アズィール、愛してるからね」
「照れですか」
「調子に乗せると仕事にならないの。忙しい人だから、分刻みの予定こなさなければいけなかったり…だから奥の手にキープしておかなきゃね」
「陽菜がいないと仕事が早いのよね、早く会いたいから」
「アリーさんからもよく言われるわ、それ」
和やかに夫である王子の話をしながら、取材は終了した。特番として四時間の枠は極限までカットを押さえ、シャーラムの歴史などはしっかり盛り込まれていた。
取材から数日後、陽菜と美月の二人同時に妊娠が発覚。予定日はほぼ同日だ。およそ十ヶ月後、陽菜は男児、美月も二日後に女児を出産。
シャーラム国内は大いに沸き返って、一週間に及ぶフェスティバルが続いた。国王も頬を緩める孫の誕生に、誰よりアズィールとサイードが歓喜した。互いの愛が形を成したからだ。
「ヒナ、疲れただろう?少し眠れ」
連日のお披露目や我が子の世話で、陽菜は寝不足気味だ。それは美月にも言えるだろう。乳母は付けず、陽菜や美月が自ら我が子の世話をするのは、アズィールやサイードも賛成だ。
「ん…」
ふわりふわりと微睡み始めた陽菜を腕に包み、共に横たわる。我が子は授乳が済み、襁褓も変えた。暫く眠れるはずだ。
「俺の愛しい太陽」
「…アズィール…」
「さぁ、眠れ」
「ん…愛、してる」
何とかそれだけ呟いて、眠り落ちた陽菜。アズィールは陽菜からの不意打ちに、いつも驚きの余り硬直してしまう。
「……全くお前は…」
微苦笑し、揺り篭の我が子に目を向ける。アズィールによく似た男児…これでサイードは継承権から解放された。
「これからが大変だな」
しっかり陽菜を抱き寄せて、親子は珍しく穏やかな昼下がり、揃って微睡んだ――――。