Lost voice Ⅱ‐キミ ノ オト‐
「んー、仕方ないし、今日は苦手なあのパート練習しようかな…」
ある曲のパートで、いつも指がつっかえてしまう箇所があり、そこを練習し始める。
変なクセがついてしまったらしく、なかなか直らない。
「う~ん…」
なかなかうまくいかず、唸ったそのとき。
「たっ…大変だーっ!!!」
なにごと!?
いきなりお店のドアが勢いよく開いたかと思うと、慌てた様子で誰かが飛び込んできた。
「おっ、愁生?おせぇよ。つーかどうした、そんなに慌てて。珍しい」
入ってきたのは、愁生さんだった。
いつも落ち着いている雰囲気からは想像も出来ないほど取り乱し、走ってきたのか息も上がっている。
「だっ、から…大変なんだって。やべぇどうしよ」
「どうしたどうした、落ち着けって。らしくないな」
「これが落ち着いてられるかっての」
どうしたのかと全員が集まってくる。
全員が揃ってることを確認し、愁生さんは努めて冷静を保とうと、ゆっくり口を開く。
「さっき、連絡があって…。この前の俺らのライブを見たあるレコード会社の人が、“うちからCD出しませんか”って…」
え…?
全員、意味がわからずポカンとした。
え、今なんて…
「おま、愁生…それって、まさか…」
「そうだよ、デビューだよ!俺らが!Rainが!!」
「う、嘘…!?」
思わず声が漏れ、一気に胸が熱くなった。
「…よ、っしゃぁあああああ!!!」
優兄の声を皮切りに、全員が歓声を上げた。
私も、嬉しくて胸が熱くて、どうしようもないほど涙があふれた。
「やったぁ、良かった…」
やったよ、アキちゃん。
ついに、ついに夢が叶うよ…
私たちの夢が、もうすぐ…
ポロポロと泣き出した私に気付いた暁くんが、黙ってキツく抱き締めてくれた。
暁くんの腕の強さから、暁くんも相当嬉しいのだとわかる。