ラブバトル・トリプルトラブル
 秀樹はもう一度直樹を見つめた。

直樹が構えるキャッチャーミット。

何も考えず投げられたらどんなに楽か……

秀樹は再び無心になろうと目を瞑り、セットポジションをとった。


(この目を開けた時きっと新しい自分に……、俺はこの手で掴みたい。直樹と一緒に掴みたい)

心穏やかに、見えない先の直樹を意識してみる。


(キャッチボールって相手がいるから成り立つんだよな? 所詮俺の力なんて……、バッテリーによって生かされるんだ。俺はそれを俺だけの力だと勘違いしていたのか?)




 やっと気付いた秀樹は胸の高なるのを覚えた。

直樹は双子の兄弟でありながら、心の許せる真の女房役だったのだ。

何時も傍にいたから今まで気付かなかった。
直樹への信頼感。
今はそれがビンビンきている。
魂を球に込めて投げれば必ず受け止めてくれることも承知している。

自分の力を過信しないで素直になろうと思った。


それは秀樹が又一つ大人になった瞬間だった。




 『カーブは教えてもいいが……ツーシームを有効に使った方が得策だ』
その時秀樹は、前任コーチの言葉を思い出した。


秀樹はストレートの握りを変えることなく、勝負球になりうるツーシームを新コーチに教えて貰うことにした。


勿論全ての球質の練習はしていた。
でももっと上を目指すために、新コーチに付いていこうと思ったのだった。

でも秀樹は苦笑していた。
無心になりたくて目を瞑ろうとしているのに、余計なことばかり考えてしまう自分の愚かさに気付いて。


今や、ストレートの代名詞になりつつあるツーシーム。
大リーグの球質表示ではストレートと分けて表示されるようになっている。
それだけ、広がりをみせている球質だったのだ。


コーチは秀樹の才能を見抜いていた。磨けばいくらでも光る器在であることも。

でもいかんせんお調子者だ。
誉めれば付け上がると思っていたのだ。




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