ラブバトル・トリプルトラブル
 きっと私は長尾家の前を通った時、引っ越し現場に出くわして……


(ん!? のままコンテナに入り込んだ? んな馬鹿な!?)

私の頭は益々混乱していた。




 「あー、もしかしたら中村さん。お爺さんに何か頼まれた?」


「え、何をですか?」


「だから俺達の世話をしてくれだとか……」


(あっ、もしかしたらお手伝いさんか何かと勘違いした? どうしよう? 知らないうちに此処にいた。なんて信じてもらえないだろうな?)
私は本当のことを言うかどうか躊躇っていた。


「あーそうか。爺さんのことだ。俺達に自炊は無理だと思って頼んだのか?」


(えっ!?)
その言葉に驚いた。
確かに聞いた声だった。
さっきまで思い出せなかったのに……

それは、一つの結論になった。




 「あー、思い出した。君は羽村大(はむらひろし)君だ」

私は高校を卒業してからも、直樹君の姿をグランドのフェンス越しに眺めていたのだ。


甲子園への出場のかかる夏の大会。

松宮高校野球部は新聞記事なので取り上げられることが多くて、朝練などで走る川沿いのフェンスは常にごった返していた。


元プロレスラー《平成の小影虎》の息子達を見ようと集まってきた人達だった。

その頃の野球部はキャプテンの直樹君の元で纏まっていた。

その中にありながら、人一倍元気な掛け声を出していたのが羽村大君だったのだ。

大君は、チームのムードメーカーとして松宮高校を甲子園へ導いた立役者だったのだ。




 「えー、俺のこと忘れてたのか? 酷いよ直のことはすぐ思い出したのに……」
大君はご機嫌斜めだった。


「仕方無いよ。同じ顔がいきなり二つあれば、誰だって思い出すよ」

私はもじもじしていた。


目の前には大好きな長尾直樹君がいる。

松宮高校を卒業した時、もう逢えなくなると思って寂しかった。


(帰りたくない)

私は陽菜ちゃんには悪いけど、直樹君の傍に居たくて仕方無くなっていた。


「はいそうです。私は頼まれて来ました」

私は嘘を言っていた。

何が何だか解らない。
でもやっと逢えた直樹君と離れ離れになるなんてイヤだったのだ。


「よし解った。そう言うことなら早速引っ越しの手伝いしてもらおうかな?」
大君が言ってくれた。
私は大きく頷いた。


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