ラブバトル・トリプルトラブル
 「あれは五月の最終日曜日にゴミゼロ運動に参加していた時だったな」

直樹君は私との出逢いのシーンを語り出した。

「俺の両親は地域での交流を大切にしていたんだ。ゴミゼロとは普通五月三十日に行われる地域の掃除だけど、日曜日にやっていたよ。その時だけ少年野球団は休みなんだ」

私の脳裏にもあの日の光景がまざまざとよみがえっていた。


「病院の横の道で佇む少女がいたので、俺は『何見てるの?』って声を掛けたんだ」


「そう、私は小さな花を指差しながら『この花、忍冬って言うんだって』って言ったのよね。そしたら『あれっ、この花二つで一つだ』って直樹君は言ったの」


「うん、そうだ間違いない」
直樹君は力強く頷いた。




 「それじゃ、中村さんは俺の……」

直樹君はそう言って口籠った。


私は直樹君の次の一言を待った。
何故だかとても気になったからだった。


「中村さんは俺の……、初恋の人だ」

それは思いがけない直樹君の告白だった。


『スイカズラの花言葉は友愛と愛の絆だから』

私は陽菜ちゃんとの出会った日に言った。

でもそれは、直樹君との思い出が言わせたのかも知れない。

私は今はっきりと思い出していた。

全てが直樹君との出逢いがあったからなのだと。


「ありがとう。中村さんのお陰で俺は此処まで来られたんだ」

直樹君はそう言いながら、私の髪にそっと触れた。


「あの頃もこんな感じだったね。ごめんね、気付かなくて……ずっと探し続けていたはずなのに」

直樹君は私の髪を指に絡めていた。
まるであの日の私を感じるかのように……。

私は天然の少し赤みを帯びた茶髪で、良く染めたのではないかとかわれていたのだ。




 「美紀の母親は誘拐されたんだ。この家を見て。何処から見ても資産家だって解るだろ」

そう言いながら直樹君はコの字型の家に手を向けた。


「産まれたばかりだったんだ。産婦人科の乳児室に忍び込んだ犯人は美紀の母親になる人を誘拐した。でもその赤ちゃんは双子だった。人違いしたと勘違いした犯人は、東京駅のコインロッカーに美紀の母親となる乳児を遺棄したらしいんだ」

昭和四十五年のことだそうだ。
当時は高度成長期で、次々と文明の力が現れたそうだ。

その代表が大阪万博や、新幹線とかコインロッカーだったらしい。




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