ラブバトル・トリプルトラブル
 渋谷駅から伸びる歩道橋。
右側に代々木体育館を見て、左に曲がる。

線路の脇道を歩くために左に折れ、階段を下りていった。


今直樹君と歩いている道が、本当に代官山へと続くことを願いながら、私達は渋谷駅から恵比寿駅方面に向かって歩き出した。

ほどよく行くと代官山へと繋がる坂道が現れる、はずだった。


(あれっ、駅。もう恵比寿駅に着いたの?)

でも目を凝らして良く見ると、渋谷駅と書いてあった。

私は急に恥ずかしくなり俯いた。


その先に代官山の看板。
でも其処はマンションだった。
私達はその先の交差点を線路から反対に上がっていった。


「へえー、代官山ってこんな場所にあったんだ」


「間違いないでしょ。確かに代官山って書いてあるでしょ」

私は電信柱に貼ってあった標識を見て得意になっていた。


「代官山ってお洒落な街だって聞いて……、でも見つけたのは偶然……」


「うん、流石ママ……」


(えっ、又ママ? もう私はママ憑きじゃあないって)

私は少し呆れながら直樹君を見ていた。




 『今日ね、物件決めて来たよ。場所は代官山で、新築物件だよ。一週間後に引っ越しなんだ。ねぇ、紫音ちゃんどうするの? あのね、十畳の部屋が六コ、二十畳のリビングに六畳のアトリエにパティオの付いた庭よ。まだ余裕あるから早く帰って来てね』


一週間前の陽菜ちゃんの言葉。
胸に刻みながら、それらしい物件を探した。


「目印は引っ越し業者のトラックかコンテナ車」

私は呪文のように呟きながら、代官山の中を探し回っていた。


「あ、コンテナ車発見。幸先いいね」

でもそれは陽菜ちゃんの荷物ではないらしい。
っていうか、業者は引っ越して来る人の名前かど明かしてはくれないのだ。




 小さなカフェに入り腹ごしらえをする。

そんな時でも陽菜ちゃんが通らないか確かめた。
私達は食事もそこそこに打ち上げ、又歩き始めた。


「おかしいなぁ。又この道だね」
引っ越し業者の車を見る度声を掛ける。

でもそれは中川陽菜ちゃんの荷物はなかった。


「それにしても引っ越ししてる人多いですね」


「ホラ、今日は三月の最終日曜日だからね」


「新入学や入社式に合わせてですか?」


「うん、そうだと思うよ」




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