好きだったよ、ずっと。【完】
「え、あの…。春夜っ」



朱里が一歩下がろうとしたのを、俺は咄嗟にその細い腕を掴んだ。



「なに、俺から逃げれると思ってんの」



「……っ」



朱里は完全戸惑った表情で、俺を見ていた。



「ちゃんと、間宮とのキス思い出せよ?」



「…んっ!!」



朱里が逃げ出さないよう、後頭部に手を回し触れるだけのキスをする。



角度を変えることもせず、ただずっと唇同士が合わさっているだけのキス。



「なに、間宮くんは触れるだけのキスしかしてこなかったの」



唇を離し、上から朱里を見下ろした。



「春夜の…、バカっ!!」



朱里は叫ぶように言うと、俺から距離を取った。



あー、なにやってんだ俺。



こんなことしたって、誰も得しないのにな。



「わりぃ。俺やっぱ帰るわ。月曜日、会社でな。じゃ」



このままここにいても、朱里を傷つけるだけだ。



俺は朱里に背中を向け玄関へ行き、靴を履こうとした。
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