好きだったよ、ずっと。【完】
「ん、どうした」



後ろに気配を感じ、ふと後ろを振り返れば俺の服の裾を掴んでる朱里がいた。



「行か、ないで…」



消えるような、細い声。



「朱里、また来るから。な?」



今、これ以上ここにいれば無理矢理、抱いてしまうかもしれない。



実際、キスだって無理矢理したようなもんだったし…。



「や、だ…」



けど、朱里は帰ることをイヤだと許してはくれなくて。



「なぁに、泣いてんだよ」



今度は、俺の腕を両手で掴んでボロボロと泣いていた。



その頬に伝った涙を、俺は親指で何度も拭った。



「だって…、春夜の傍にいたい…」



「…俺だっていたいよ。でも今の俺は、嫉妬の塊でしかないんだよ。今お前と一緒にいたら、どうするか分かんねぇだろ」



「いいんだよ…?春夜の、好きにしても…」



「は?」



俺の好きにしていいって…、朱里分かって言ってんのか?



「わたし、春夜になら。強引に抱かれてもいい…」



「ば、バカじゃねぇの」



朱里の思いがけない言葉に、声が上擦った。



強引になんか、できるわけねぇし。



「ねぇ、キスして?春夜のキスが、ほしいの…」



朱里は俺の胸元をグイッと引っ張った。
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