好きだったよ、ずっと。【完】
「今、どんな気分でしょう?」



カウンター越しに男性が、笑顔でわたしに尋ねてくる。



「どんな、気分……」



「例えば、疲れてるとか、イヤなことがあったとか、お客様の今思ってることです」



今、思ってること…。



そんなの、決まってる…。



「……、何もかも忘れたい」



ポツリと、呟いた。



「朱里…」



聡が、わたしの方を見ていたのは知ってる。



知ってたけど、目を合わせることはできなくて。



「やっぱり…、春夜が、好きなのっ。大好きなのっ…」



そう言ったと同時に、溢れ出した涙を両手で覆った。



「はい、朱里ちゃん」



「え?」



隣から声がして、見たら花音さんがハンカチを差し出してくれていた。
< 205 / 267 >

この作品をシェア

pagetop