後追い心中 完
後追い心中


雨に濡れたアスファルトはいつもよりも黒々としていた。それが太陽の光を浴びて、てらてらと光る。触れたらぬめっとした感触がしそうだなども思いながらその上を歩いた。足どりは重かった。

息をすることすら面倒で、身体が怠くてたまらない。このまま眠ってしまいたかった。いや、いっそのこと眠るようにして消えてしまいたかった。
もう何も考えたくない。辛いだとか、苦しいだとか、そういった感情を全て通り去って、最早何もかもがどうでも良かった。

ただ、目的の場所へとひたすらに俯きながら歩を進める。


――蓮田(はすだ)くんが死んだ。


高校を卒業してから3年。彼のことを思い出さない日は1日もなかった。

同じクラスになったのは1年生の1年間だけ。話したことすら3回しかなかった。それでも彼の太陽のような笑顔はわたしを惹きつけてやまなかったし、いつでも人に囲まれた彼に焦がれた。
近付きたい、と、そんなことを思ったことすらなかった。

自分が目立たない地味女だという自覚はしっかりとあったし、生きる世界が違う人だということも判っていた。ただ彼の姿を見ていられれば、それで良かった。

クラスが離れたことを知ったその日は夜通し泣いた。彼に彼女が出来たと知った日には心が張り裂けそうな痛みに苦しんだ。それでも全てを受け入れた。

自分なんかが多くを欲してはいけないと全ての欲を押し殺して。


彼はきっとわたしのことなんて憶えていない。それでも良かった。わたしの記憶に蓮田くんは残っているから。

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