二重人格三重唱
 戦火の乙女の像の前で手を合わせた。

途中で見た立て看板には、道路封鎖の案内があった。
六時から九時までだった。


「つまり、灯籠流しは六時からだってことか?」


「良かった。意外と早く帰れるかもね」


まだ時間があったので星川の先まで行ってみた。


上熊谷駅とデパートを繋ぐ通りの途中の交差点から、地下を通っていた川が現れる。

それが星川だった。
星川はいきなり始まる。
そんな言葉がぴったりな小さな川だった。


上熊谷駅まで歩く。
小さな駅の周りは静かに、星川の灯籠流しの始まる時を待っていた。


「もうちょっとすると賑やかになるのかな?」
閑散とした風景を心配した翼が独り言を言う。


「これから大切な行事が始まるのにね」


そう。灯籠流しが始まる少し前にしては駅前に人が居なさすぎる。


「電車が着いたらきっと大勢降りて来るわよ」
二人は頷きながら、鎌倉町の星川通りに戻った。




 戦火の乙女の像の前にはまだ人はいなかった。
それでも既にテーブルなどは置かれていた。


ガサゴソ音がして、いきなり道路に水が撒かれた。
小さな広場横の植え込み中に水道があるらしく、其処からホースが出ていた。
今度は乙女の像の横から撒く。

その人が去った後、雑巾を持った女性がテーブルを拭き始めた。
そしてその後、その雑巾をどこで洗うのかで相談していた。


そんな光景をぼんやり見ていた二人。


「あのー、植え込みの中に水道があるはずですが……」
たまりかねて陽子が言う。

これから灯籠流しのある星川を汚したくない。
陽子も女性も考えは同じだった。

陽子はさっき水を撒いてた辺りにその人を連れて行った。


「地元の人でも知らないんだね」


「それを教えた私って偉い?」
陽子は翼に耳打ちをした。


やっと準備が始まろうとした時のことだった。
川の飛び石に下りていた人が流す真似をしていた。
次々と真似をしては話し合う。


どうやら川の水位が何時もより低くて、子供達が川に落ちるのではないかと言う相談らしかった。




< 100 / 147 >

この作品をシェア

pagetop