二重人格三重唱
 翼は常に翔と戦っていた。

陽子に会いたい一心で。

側にいて守ってやりたい一心で。

翼は翔の体の中でに魂となっていた。

あの日、サバイバルナイフで刺し殺されてしまったのだった。

死体は庭の隅に埋められていた。


イヤ、確実には翼はまだ死んではいなかった。

翼が埋められた庭。
そこで翼はやっと母に会う事が出来た。

母も殺されて庭に埋められていたのだ。

翼は母を求めて必死に指を伸ばした。


「母さんごめん。僕は此処で死ぬわけにはいかない。陽子を、陽子を守りたいんだ」

翼は恋しい母に体を預けて、旅立って行った。


翔は途方に暮れていた。

翼の構えたサバイバルナイフを奪ったとこまでは記憶していた。
でも刺したかどうかも定かではない。

気が付いたら翼が死んでいた。


隠すしかなかった。
だから穴を掘って埋めたのだった。


それがどんなに労力を使うかなんて考えもせず、ただ一心不乱に翼の存在を消すことだけに終始した。


そして翔は翼を殺した事実さえも隠そうとした。
自分の記憶の中から、意識の中から。

翼の存在した事実まで消していた。
苦しみから逃れるためにもう一人の人格が現れる。


其奴が翼を殺した。
いや翼自体存在すらしていない。
そう思い込もうとした。

出来る筈がないと解っていながら……


翼はその新たな人格によって、魂を翔の中に挿入することが出来たのだった。

翔に残った僅かな優しさによって。




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