二重人格三重唱
 陽子も翼のことが気になって、帰りの電車で終点まで乗っていた。


病院から一番近いのは秩父駅だった。
でも陽子は御花畑駅まで歩いた。
定期券があったためだった。


その駅は西武池袋線と連携していた。
休日の朝は三峰口方面や長瀞方面へ向かう電車もあるが、夕方は池袋へ向かう。


改札口が開いていたため急いでホームへ向かった陽子。
乗り込む直前で気付き事なきを得た。


陽子は何時もこの駅で下り、西武秩父駅まで歩いていた。
何時も通学で利用している電車なので、違和感もなかったのだ。


(危ない、危ない)
ため息を吐いた陽子。
でも、次に来た電車で悲劇は起きたのだった。




 秩父鉄道三峰口駅。

陽子は何時も此処からバスに乗って帰っていた。

家は三峰神社行きのロープウェイ入口の近くで、土産物店を経営していた。

そのロープウェイの廃止が決定した。
多くが店仕舞いする中、両親は頑張っていたのだったけど……


諸条件があり、店をたたみ武州中川駅の近くに引っ越してきたのだった。


うっかりしていた。
陽子は翼のことばかり考えていた。

胸のトキメキを抑えられずに、四苦八苦していた。


改札口で定期を確認して、やっと間違えに気付いた陽子は慌てて駅に戻った。
でもその時には電車は出てしまった後だった。


三峰口は、終点であって始発駅でもあった。

下り電車が折り返し上り電車になって、陽子の視線から消えて行く。




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