二重人格三重唱
 友人の医師に相談した孝は、人生で初めての睡眠薬を手にしていた。


それは勿論自分で服用するためだった。

初めは睡眠導入剤と言う弱い薬だった。
だけど興奮している孝には効かなかった。


次は強め。
その次はもっと強め。
孝の体は、それでやっと眠れるようになった。

孝の手元に残った大量の睡眠薬。
それらを枕元の置きながら眠る日々を重ねる。
でも結婚式が近付くにつれ又もや興奮状態になる。

そして遂に、医師に止められていたお酒の力を借りることとなった。



 結婚式の日。

孝は披露宴会場のあるホテルのスナックを二次会場として借り切っていた。




 みんなが帰った後、香だけが残されたスナック。
ソファーの上では香が眠らされていた。

香を愛してしまった孝が出した答がこれだった。

他の男と関係を持つ前に奪いたかった。

まず、誰にも邪魔されないように鍵を掛ける。
そして香に触れる。

睡眠薬を飲まされて横たわる香。
抵抗など出来るはずがなかった。




 それはちょっとしたきっかけだった。
不眠症の薬を飲んだ後で、お酒の力を借りてしまった孝。
その結果、意識が飛んでしまったのだった。
一歩間違えたら死ぬかもしれない状況だった。


その時悪用することを思いついたのだった。


香にお酒と一緒に睡眠薬を飲ませてヴァージンを奪いたい。


でも睡眠薬を砕いてお酒に入れると澱粉が浮く。
これをカモフラージュするために生搾りのカクテルを飲ませることにしたのだった。


睡眠薬の効き目を確かめるかのように、無抵抗な香を愛撫する。

妻となった薫には、友人と飲むと嘘をついて……




 横瀬駅から乗り合わせる香を待ちながら、孝は恋に狂っていた。


(もし乗っていなかったら? もし自分を軽蔑して車両を替えていたら?)

そんな自虐的なことばかり考えていた。

そして再び逢えた幸せに胸をときめかす。


言葉を交わすことが出来ない分体が燃える。

心が燃える!


(あぁ、今すぐ抱き締めたい!!)


孝は欲望に駆られていた。

心も体も煮えたぎる。


近付けないもどかしさがより一層深い愛に変わる。
苦しみに変わる。

孝一はもう……
香なしでは生きていけなくなっていた。




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