二重人格三重唱
 父親の看病のために帰る日を待ちわびる。

又逢いたいがために……


目の前に、あんなに恋い焦がれた香が眠っている。


何時も自分が飲む量より多めに入れた睡眠薬。


効き方を診ながら次第に大胆になる孝。


自分のモノにしたかった。


本当に結婚したかったのは香だったのだから。




 香は何も知らず、翌日家で目を覚ます。

スナックのソファーで寝ているところを、酔い潰れと思い込んだ勝が家まで運んで来てくれたのだった。


下腹部の鈍い痛み。
これが何の痛みなのか香には知る由もなかった。


妊娠に気付いた時はもう堕胎出来る状態ではなく、産まざるを得なくなった。


「お父さん信じて、私本当にヴァージンなのよ」
香は泣きながら訴えた。
でも幾ら言っても聞く耳を持たない勝。

妊娠している娘がヴァージンであるはずがない。
勝もそう思っていた。




 そんな時。
勝の脳裏に薫の結婚式の日に酔いつぶれた香の姿が蘇ってきた。

二次会に出席した誰かが意識のない娘をレイプした。

勝はそれしかないと思うようになった。


勝がスナックに行ったのには訳があった。
匿名の電話がかかってきたからだった。


『お嬢様の香さんが二次会のあったスナックで酔いつぶれています』
と言って切れた電話が。




 それは香も感じていた。

そして、その男性が孝であってほしいと思った。
子供の父親は自分が愛した男性であってほしかった。

堕胎出来ない以上……。

産むしかない以上……。

たとえそれがレイプであったとしても……。

初めて受け入れたのは、孝以外であってほしくなかったのだ。


電車の中で熱い視線を送っていた孝。

自分を本当は愛しているはずの孝。

孝以外考えられなかった。
考えたくもなかった。




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