二重人格三重唱
 「摩耶ったらうまくやったわね」

控え室の隅で、友人らしい三人組が話していた。


「いいわね。玉の輿だもの」


「日高君いい男だし。お金持ちらしいし」


「もしかして、財産を狙って近づいたのかな? だって殺人事件のあった家何でしょう?」


陽子が聞いているとも知らす、三人組は言いたいことを言っていた。


(摩耶さんてそう言う人だったの?)

陽子は溜め息を吐きながら三人から距離を置いた。




 翔は翼と戦っている。

それに気付いた陽子。


陽子は涙をこらえることが出来なかった。


(翼……逢いたいよ。翼……たとえ体は翔さんでもいい。あの日の心は確かに翼だったから……。翼……私を一人にしないで!!)

陽子は翔の心に向かって叫んでいた。





 六月の最終日曜日。

陽子は、結婚式に出席する姉夫婦から留守を預かっていた。

やはりジューンプライド。

梅雨の時期なのに、結婚式場は大繁盛のようだった。


結婚式と聞いて真っ先に思い出すのは、翔と摩耶だった。

二人はもう新婚旅行から戻っている筈だった。

だから陽子は密かに、翔を介しての翼を待っていた。

陽子は確かにあの日、翔の体の中に翼を感じた。


翔に憑依してまで自分に逢いに来てくれる、翼の愛を感じた。


逢えなくなった今だからこそ、陽子は翼に逢いたくて仕方なかったのだ。


夫婦になった後、初めてこの部屋に通された時翼が付けた柱の記。

そんなキズ一つ一つが思い出と重なる。


『僕の事、ずっと見ててくれる?』

もう充分大人の翼。

それなのに……

陽子の為に成長したいと翼は願った。

自分の目標を教師になる事と定め、懸命に勉強をしていた翼。

思い出す度胸が熱くなり身を焦がす。

陽子は日々翼との思い出の中に生きていた。




 そんな時、堀内家の玄関のチャイムが鳴った。

陽子がモニターで確認すると、ドアの向こうに翔が立っていた。


(翼が帰って来た!)


陽子の動悸が激しくなる。

噂をすれば何とやら……。


(あー! この日をどんなに待ちわびた事か!)

でも陽子は、逸る気持ち落ち着かせる為に深呼吸をしてから画像に映る翔に向かった。


「翼なの? それとも翔さん?」

インターフォンごしに陽子が恐る恐る聞く。


翼であってほしかった!





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