二重人格三重唱
 翼は勝の病室にいた。
浦山ダムを見つめてはため息を吐く。
そしてやたらと動き回る。


さっきから、ずっとそわそわしている翼を勝は不思議そうに眺めていた。


「お義父さん具合どう?」
純子が入って来る。
その後ろに陽子。
翼の顔が赤くなる。


「お義父さん聞いて、陽子と翼君付き合うことにしたんだって」
純子の言葉に陽子も真っ赤になった。


「ほら、恥ずかしがっていないで」

純子は陽子と翼を勝の前に連れて行った。


「そうか、これか! 実は翼の奴、ずっとそわそわしてたんだ。そうか、良かったな翼。これで安心して死ねるよ」
勝は涙を流しながら、二人の交際宣言を聞いていた。


「いやだよ。そんなこと言っちゃ」
翼は泣きながら、ベッドにすがりついていた。


「僕、お祖父ちゃんからもっともっと話を聞きたいいんだ。」


「話か。そうだったな。翼は赤穂浪士の話が好きだったな」
勝はそう言いながら笑っていた。


勝が長くないことは主治医から聞いていた。
それでももっと長生きしてほしかった。


「陽子さん、翼を頼むよ。わしはこいつが不憫でならないんだ。薫め、こんな優しい孫の何処が気に入らないんだ」


勝のその言葉に翼はハッとした。

まさか勝に気付かれていようとは。

翼はシュンとしながら勝と陽子を見つめた。


勝は陽子の手を握り締めながら泣いていた。


翼はその時気付いた。
勝だけではないと言うことに……


(もしかしたら同情か?)

それでも翼はこの恋が本物だと思っていた。




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