二重人格三重唱
 明智寺の六角のお堂の中に入った二人は、祀られている仏像に手を合わせた。

その後どちらからともなくおみくじに手を伸ばした。

赤い小さなおみくじ。

代金は百円だった。


「これ位いなら僕にも払える」
翼は財布から百円玉二つを出し料金箱に入れた。


「二人分?」
陽子が聞くと翼は頷く。


「おみくじかと思ったら違うわね。みくじだって」

良く見ると赤い巻紙に“みくじ”とあった。


「へー、知らなかった。お寺だからかな?」

そんな事を言いながら、中身を取り出す翼。


「小吉か。陽子と出会って変わると思っていたのに…… でも今までが大凶だったからな」

独り言のように呟く翼。


「何々。ぐわんもう叶(かな)ひがたし心正(こゝろたゞ)しければ後(のち)には叶(かなふ)也(なり)。えー意味不明だな」

みくじを読んでいる翼を暖かく見守りながら、陽子も中身を取り出した。




「わあー、私の方は大吉だって」

陽子ははしゃぎながら、翼に聞こえるように言った。


「そりゃー大吉に決まってるよ。だってこんな可愛い恋人が……」

でも陽子は口ごもった。


翼は次の言葉が聞きたくて全身を研ぎ澄ました。


「日高翼……さん。……と言う素敵な恋人が出来たんだもん、大吉じゃないとおかしいよ」

悪戯っぽく陽子が笑う。

翼の全身が、又震え出す。
陽子の魅力に取り憑かれ、翼はうろたえていた。




 小刻みに震える手を庇いながら、六角堂横の木にみくじを結ぼうとしていた翼。


「記念にするから頂戴」
陽子はそう言いながら、そっとそれを横取りした。


気付いていた。
だからワザとふざけるような態度をとったのだ。


みくじをしっかりたたみ赤い筒の中に戻してから、バッグから取り出した緑色のコインパースに入れた。

翼との二つ目の記念品となった。
陽子は横瀬駅でも記念品を作っていた。
西武秩父駅で買った切符だった。

駅員に記念にする旨を話して了解してもらっていたのだった。


(翼……産まれて来てくれてありがとう)

陽子は素直に、翼と出逢えた奇跡と軌跡に感謝した。




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