二重人格三重唱
 「ねえ知ってる。鳥居もこの沿道も真ん中を歩いちゃ駄目なんだって」


「ううん、どうして?」


「真ん中は神様の通る道だからだって」


「神様? でもみんな歩いているよ」

翼に言われて後ろを振り向いてみた。
確かにみんな堂々と真ん中を歩いていた。


「これじゃ御利益は期待出来ないわねー」

陽子はこっそり言った。




 「何お願いしたの? 大体見当はつくけど」


「えっ、何だよ。だったら言ってみろよ」

幸せ過ぎてどうしても緩んでしまう口元を、必至に隠しながら翼は言った。

陽子はそんな翼が愛おしくてならなかった。


「おじ様のことよね? 元気になってほしいから」

陽子は一緒に年越し蕎麦を食べた時の、勝の幸せそうな横顔を思い出していた。


「それと私のこと……」


(あっ!?)
言ってしまってから陽子は赤面した。

慌てて横を見ると、翼は含み笑いをしていた。


「ん、もう。翼の意地悪」
陽子は思わず翼にしがみついていた。




 「よお翼。お前らが初詣に行くって言うから俺達も来たぞ」

いきなり背後から声が掛かった。

そこにはほろ酔い気分の翼の父孝がいた。

その後ろに母の薫がいた。


「翔は?」
翼が聞く。


「寒いのは嫌だって」


「あいつらしいな」

翼は薫に笑みを振りまいていた。


陽子はそれを見て物凄く嬉しくなった。

ほんわかとした親子関係。

そんな雰囲気だったから。


(なあんだ、心配する事なかったんだ)
陽子は素直にそう思った。


「翼の彼女を紹介してもらおうと思ってさ。この娘かい? ラブラブだって言うのは?」

でも……
孝の一言で場が変わる。

孝は酒に酔っているらしく、足下をふらつかせなながら二人に近づいた。


孝はワザと陽子にもたれ掛かった。

陽子は嫌々孝を支えた。


「いい娘じゃないか。翼には勿体無い。そうだ俺の女になれ。いい思いさせてやるぞ」

孝は陽子が気に入ったらしく、舐め回すように見ていた。


「あなたいい加減にして、そんなことして恥ずかしくないの? 陽子さんが困っているわ」
薫は孝の手を取って陽子から離そうとした。

孝はそんな薫を鬱陶しげに睨み付けた。

薫は仕方なく、二人から離れた。


そして遠巻きに孝の乱行を見ていた薫は、陽子に冷た視線を浴びせた。


(ゾォー! えっ、何? 今のが本当の姿?)

純子の結婚式で翔のことばかり言っていた薫。


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