二重人格三重唱
 勝が静かな寝息をたてている。

病室には翼と陽子。

勝を見守りながら付き添いベッドにいる。


でも勝は寝てなんていなかった。

クリスマスイブの夜に叶えられなかった夢が……
やっと見られる。

それも夫婦となった二人として……
それ以上何を望んではいない。

そう。
それだけが心残りだったのだ。


「ありがとう陽子」
翼が優しく陽子の耳元で囁く。

陽子の体が緊張して震えている。

翼も震えが止まらない。

それを見つめる勝。

涙が溢れる。

勝は寝たふりをしてその瞬間を待っていた。

翼にやっと訪れた幸せ。
ただそれだけを見守ってやりたく……


陽子はずっと考えていた。

成人式の日に勝に言われた一言を。


『どうだこのまま此処で式を挙げてくれないか?』

そのことだけを……

その言葉が耳から離れられなかったのだ。


「ねえ、翼。私の名前がどうして陽子になったのか知りたい?」

翼は頷いた。


「私の家、三峰土産を売る店だったの。あの頃忙しくて入院なんてしてられなくて、産婆さんが取り上げてくれたんだって。夜明けと共に産まれた私が眩しくて、『まるで太陽の子だ』って父が言って……。私、母によく言われたの。『お前は太陽の子だから、強く生きろ』って」


翼は陽子の言葉で、初めて言葉を交わした日のことを思い出していた。


堀内家の玄関で見た、後光に包まれた陽子を。


「太陽の子か。分かる。確かに陽子は太陽の子だ。僕の太陽だ。もう離さない」

勝が見ているとも知らず、翼は陽子を抱き締めた。


そっと触れる指先。
陽子は思わず緊張した。


陽子は硬直する体を赤く染めながら初めて翼を受け入れた。


翼が何時も逃げ込んでいた秘密基地。
陽子は翼の背中に手を回しながらあの場所を思った。
今度は自分が、翼を受け止める基地になろうと思いながら。


勝はそんな二人を見ながら泣いていた。
翼が羽ばたく姿。
翼が自分にだけに見せる屈託のない笑顔。
それらを思い浮かべながら勝は静かに目を閉じた。




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