二重人格三重唱
新盆の送り火
 家族から愛されなかった日々を記憶の底から消し去りたかった。
全てこれからの喜びとするために。
陽子との愛だけの日々にするために。

でも出来るはずがなかった。

そして思った。
翔に言われた厄病神として、これからも生きていかなければならない自分の運命を。


鬼でもとり憑いたかのように、翼は試験勉強に没頭した。

陽子はそんな日々に不安を抱きながらも、それがやっと勉強出来る場を与えられた喜びからだと思うようにした。


そんな中、勝の新盆がやってくる。

胡瓜と茄子の馬。
鬼灯と回り灯籠。
お盆用品で埋め尽くされていく仏間。
まだ悲しみの癒えない家族にも時は待ってはくれなかった。
容赦なく冠婚葬祭の課題をぶつけてくる。


回り灯籠を見つめていると病室の勝が蘇った。
ウエディングドレス姿に感嘆した同席者は、翼と陽子に想いを託して退室した。

それなのに、やっと得られた愛の時に二人は酔った。
勝の最期を看取れなかった悔しさがだ陽子の心を支配していた。


あの日、初めて男性に肌を許した陽子。
その日は自らが選んだ初夜になった。
今まで翼を拒んでいた訳ではないのに……
これからもチャンスは沢山あるはずなのに……
何故待てなかったのか?
何故求めてしまったのか?

陽子は未だに苦しみ続けていた。




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