二重人格三重唱
八月十六日。
何時か約束した星川の灯籠流しに、二人は出発した。
勝の送り火を兼ねて……。
この日はSLは走っていなかった。
それを知らない二人は二時に御花畑駅にいた。
復路の始発駅の三峰口を発つのが二時だと思ったからだった。
陽子は高等学校卒業時に普通運転免許証は取得していた。
でも短大には学割の利く電車通学にしていた。
だから偶に忍のステーションワゴンを借りて、乗り回していた。
せっかく苦労して覚えた運転技術を忘れないようするためだった。
でも熊谷に行くための車は借りないことにした。
忍と純子夫婦は、この日町役場に休暇届けを出していた。
勿論勝の新盆のためだった。
そんな大事な日に出掛けようとしている二人。
車を貸してほしいとは言い出しにくかったのだった。
いくら忍が貸しても良いと言っていても。
忍にはバレンタインディの日に勝を迎えに行けなかった負い目があるらしい。
だから時々、あのように声を掛けてくれるのだ。
でも……、だからと言って、それに甘えてはいけないと陽子は思っていたのだった。
「やはり、この方が良かったわね。だっていっぱいお話出来るもの」
陽子が耳元で囁く。
翼はくすぐったそうに身をよじる。
「そうだね。いくら叔父さんに車を使っても良いよって言われても、やっぱり気が引けるし、それに今日はきっと大渋滞になりそうだしね。電車で正解だったかな?」
「ねえ翼。私達も何時か車を買おうよ」
「うん、そうしよう。車だけじゃなく、家も持とうか?」
「家を……」
「僕達に子供が出来た時、陽子と言う木漏れ日の下で育てたいんだ」
翼は大樹の下で見た夢を陽子に語った。
「私が木漏れ日なら、翼は木ね。それも大樹」
大樹。
その言葉に翼は震えた。
何時かコミネモミジのようなでっかい木になり、陽子を守れる存在になろうと思った。
でも今の自分は、甘えるだけの存在だ。
翼はそう感じていた。
(―何時か……じゃあなく、一日でも早くなれればいいな)
翼はそう思いながら陽子を見つめていた。
何時か約束した星川の灯籠流しに、二人は出発した。
勝の送り火を兼ねて……。
この日はSLは走っていなかった。
それを知らない二人は二時に御花畑駅にいた。
復路の始発駅の三峰口を発つのが二時だと思ったからだった。
陽子は高等学校卒業時に普通運転免許証は取得していた。
でも短大には学割の利く電車通学にしていた。
だから偶に忍のステーションワゴンを借りて、乗り回していた。
せっかく苦労して覚えた運転技術を忘れないようするためだった。
でも熊谷に行くための車は借りないことにした。
忍と純子夫婦は、この日町役場に休暇届けを出していた。
勿論勝の新盆のためだった。
そんな大事な日に出掛けようとしている二人。
車を貸してほしいとは言い出しにくかったのだった。
いくら忍が貸しても良いと言っていても。
忍にはバレンタインディの日に勝を迎えに行けなかった負い目があるらしい。
だから時々、あのように声を掛けてくれるのだ。
でも……、だからと言って、それに甘えてはいけないと陽子は思っていたのだった。
「やはり、この方が良かったわね。だっていっぱいお話出来るもの」
陽子が耳元で囁く。
翼はくすぐったそうに身をよじる。
「そうだね。いくら叔父さんに車を使っても良いよって言われても、やっぱり気が引けるし、それに今日はきっと大渋滞になりそうだしね。電車で正解だったかな?」
「ねえ翼。私達も何時か車を買おうよ」
「うん、そうしよう。車だけじゃなく、家も持とうか?」
「家を……」
「僕達に子供が出来た時、陽子と言う木漏れ日の下で育てたいんだ」
翼は大樹の下で見た夢を陽子に語った。
「私が木漏れ日なら、翼は木ね。それも大樹」
大樹。
その言葉に翼は震えた。
何時かコミネモミジのようなでっかい木になり、陽子を守れる存在になろうと思った。
でも今の自分は、甘えるだけの存在だ。
翼はそう感じていた。
(―何時か……じゃあなく、一日でも早くなれればいいな)
翼はそう思いながら陽子を見つめていた。