シュガーメロディ~冷たいキミへ~
「え……?」
「……その人のために、もう一度ピアノを弾こうと思ってはくれないですか?
きっと私と同じように、先生がもう一度、先生らしい演奏をしてくれることを望んでいると思うんです。
……少なくとも私はずっと、いつまででも。先生のピアノを待っています」
たどたどしく、ゆっくりと。
水無月くんの口から紡がれる言葉に、どうしてか、あの頃の私の記憶が、勢いよく頭の中でよみがえってくる。
────私は、先生がまたピアノを弾いてくれるまで、いつまでだって待ってます!
幼かった私の言葉。
先生にぶつけた感情的な言葉が、水無月くんの言葉に引き上げられるようにして思い出された。
記憶を懸命にたどっていた水無月くんがふと視線を私の方に向けてきて。
まっすぐ、目が合った。
「毎日のように家に来て、母さんにピアノを弾いて欲しいって頼み込んでたのって。
……もしかして、雪岡?」
水無月くんの、ひそめるような声。
私は考えるより先に、こくりと頷いていた。
そっか。
あの頃だって水無月くんは先生と同じ家に住んでいたんだもん。
私が先生に泣きついていたのも縋りついていたのも、全部聞かれてたんだね。
そう思うとなんだか恥ずかしいけど、不思議な気持ち。
再会したのは中学1年生のとき以来だと思っていたけど、本当は私たち、すぐ近くにいたんだね。