シュガーメロディ~冷たいキミへ~
「……」
無意識のうちに触れていたのは、彼女に触れられた唇の端。
「おーい航、早くしろー」
「……あ、わり、今行く!」
レジの方から呼ばれてハッとする。
何ぼんやりしてんだよ俺。
今日ボーっとしすぎだろ、俺!
しっかりしろ、と自分に喝を入れ、ようやく皆の方に歩き出したのだった。
どうして雪岡の一度の笑顔であっさりその音が止んだのか。
俺の中で、嫌いな音を出す女、という存在から少しずつ変わり始めていたことに、まだ気づいていなかった。
知りたい、なんて思っていなくても否応なく残された彼女の笑顔は、俺の脳裏に強く焼き付いて。
好き、が憎いに変わることは簡単だと分かっていても。
その逆があることなんて、まだ知らないままだった。