徹底的にクールな男達
「考えすぎー」
福原はまるでいつものことのようにごく自然に、麻見の頭に手をぽんと置くと不躾にも、
「武之内店長に色仕掛けでもしようと考えてた?」。
「んなわけないです!! 色仕掛けなんてできません」
咄嗟に肩を揺らして頭から手を振り払った。
なんかいつもこの人には不愉快にさせられる。そう気付いて、先に店長室を出た。
「まあそういうのになびくタイプじゃないわな。前も言ったけど」
後ろに付かれ、以前の居酒屋での話をぶり返されて思い出した。
「そうですね」
沙衣吏が福原の前で「武之内店長のこと、タイプだと思ってた」と発した一言を福原が忘れていることを祈る前に、
「けどタイプなんだろ?」
「違います」
先を読まれたことに焦りながら、前を向いて速足で売り場に向かう。
「じゃ、俺が狙っていいわけだ」
そう聞こえた気がしたので、足が一瞬止まった。そこで立ち止まらなければ何事もなく先へ進めたのに、両脚は、簡単に完全に止まっていた。
福原は一歩先に進み、「ここで言うのもなんだけど」と前置きしてから、
「好きだよ。麻見さんのこと」
見つめながら堂々とするその、熱い突然の告白に思わず顔ごと逸らす。
垂れ下がった目と逆に上がり気味の眉は、この上なく真剣だった。
だが福原は、本気でとってしまった麻見をフォローするかのように簡単に
「どう取るかは、任せるけど」
と、声だけで笑う。
……、はあ?
再び不愉快になったが、そこにはもう後姿しかなくて。
「俺ももう34だしね、遊ぶ余裕はないし、海外目指すとなれば時間もなくなるし」
何を言い返せばいいか分からなくて、仕方なく、黙って同じ方向について行く。
売り場はすぐそこだ。
結局、福原が何を言いたいのか分からないままだ。好きだからと言われて、好きになれるわけではないし、本気かどうかもあやしいし……、とりあえず保留にしてスル―するか、と流れを決めた時。
丁度売り場からスタッフルームへ行こうとしている武之内が、扉を開けて裏方のこちら側に来た。
「おつ……」
かれさまです、と言うのが当然のマナーだと軽く頭を下げようとした途端、
「武之内店長、僕達、海外に行きたいんで推薦してください」
突然。自信満々の、むしろ攻撃的な表情で、福原は武之内の目を見て放った。
急に何を言いだすんだと、しかもこちらの意見も全く聞かれずに、巻き込まれた形になった麻見は「えっ、ちょっと!!」と小声で武之内を見上げたが、福原は武之内とにらみ合ったままだ。
「……、」
次いで、眉をしかめた無表情と目が合う。
「いやっ、あの……」
何か言わなければ、と声を出したが、武之内は抑揚のない声で、
「優秀者を推薦するけど……。そしたら、2人を推薦するかどうかは、事前に連絡させてもらうよ」
痴情のもつれや、その他のことなどどうでも良いと言わんばかりに、武之内はすぐに立ち去る。
「何で突然言うんですか!?」
武之内がまだ側にいることに気付いていたが、むしろその方が好都合だと、麻見は大声で福原に怒りをぶつけた。
何の予告もなく巻き込まれた麻見は福原を睨みつけたが、当の本人はただ武之内の背中を追うばかりで、
「……もう誰を推薦するのか決まってるのかも」
そう静かに呟くと、1人先に売り場へ戻った。