徹底的にクールな男達

10/10 身体の教育※甘い描写が有ります



 クールで無愛想な、それでいてあまり笑わない武之内店長が、それでも笑顔で人を褒める時がある。

 それが、大きな売り上げを上げた時だ。

 店にとって売上予算達成は、最重要事項だ。

 つまり、店長は売り上げを上げる人物を、少なくとも優秀だと判断するはずである。

 商品を売る。しかも、高額な物を複数個。

 そのためには、知識をつけなければいけない。

 そこに結び付いた麻見は、構造が簡単そうな炊飯器やポットなど身近な調理家電のカタログを一式持って帰ると、自宅のガラス張りリビングのテーブルで、大きく広げたのだった。

 炊飯器は安価な物も少なくないが、高額な物は10万円以上する。価格が下がっている液晶テレビに比べれば、売り方次第で売り上げは上がるのだ。

 普段レジにいる麻見も、お客に誘導され、たまに売り場に出ざるを得ないことがある。分業制を主張する武之内はそのタイミングを嫌い、他に任せるべきだと思っているだろうが今はそれがチャンスだ。

 そのチャンスを存分に生かせば数字が上がる。普段レジを担当しているのにも関わらず、他よりも数字がよければ、目立つに違いない。

 溜息を深呼吸に変え、午後11時に鈴木の車で帰宅した麻見は、荷物をリビングに置くなり服も着替えず制服にエプロンだけ付け、すぐに夕食にとりかかった。

 送り迎えを鈴木がしてくれるようになってから、帰りに買い物に寄れないし、自由がきかない。しかし、10日ほど前に葛西が来てからというもの、鈴木は夕食を一緒にとった上に、最初にビトンのバックを放り込んだ自室で寝るようになり、2人暮らしともいえる生活になってきている。

 相変わらず無口な鈴木が、何をどのように考えているのか一切分からないし、葛西が来た日に起こった接近戦も、まるでなかったことのように触れず終いだ。

 それでも鈴木はいつもパーカーのようなカジュアルな服装でいて、静かに対面してダイニングテーブルで腰かけ、文句も言わず、出された物を残さず食べていた。メニューは冷凍パスタや野菜ミックスと肉を炒めるだけなどの失敗もできない簡単な料理だがおそらく美味しいと思ってくれているに違いない。

「4日後、頭(かしら)が来られる」

「……、え……あぁ……」

 久しぶりに口をきいたかと思えば、葛西の話だ。

 しかも、前回の葛西は怖かったし、その後の鈴木も怖かったし、気が重い。

 かといって、できることしかできないし、脚を広げろと言われたって広げられないし。でも、優しく開いてくれるのなら話は別なのにと、秘かな希望を胸に、食べ進める。

 鈴木は1人、先に食べ終えると話を始めた。

「お前、この前頭(かしら)が来てから1人でしたか?」

「えっ!? ……な、にを……」

 何が言いたいのかさっぱり分からないような、分かるような麻見は、慌てて問い返す。

と、鈴木は目を逸らして溜息をつき、

「この前言っただろ。相手できるようにしとけ、と」

「え、あぁ……相手って……でも、話、合わない気がするし……」

「話じゃなくてイロのことだ」

 鈴木は眉間に皴を寄せて説明するが、

「いろ……?」

 一般人の麻見にはそれが通じず、ただ鈴木の顔を覗き見た。

「だから、今度はもっとまともにセックスしろ。分かったか? 頭と身体使え。この前みたいに逃げたりすんじゃねーぞ」

 目で突き刺すように睨まれ、怖くて箸を持つ手を下げて、顔を伏せた。

「でも、逃げたわけじゃ……」

「こっちから誘うんだ。……気に入ってもらえたら、服でもなんでも車でも買ってもらえるぞ」

 声が若干優しくなった気がしたが、

「別に……いらないし」

「じゃあなんでお前、ここに居るんだ!?」

 声がイラついてきたのが分かったので、正直に素早く答えた。

「し、借金があるから……」

「で、お前はイロんなったんだよ。ならそれらしく働け」

「え……」

 麻見は顔を上げて、鈴木の顔を見た。

「イロって……何?」

「……」

 鈴木はこちらを睨むと、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、強引に麻見の腕を掴んだ。

「こっち来い」

「えっ!?!?」

 強引にリビングのソファまで引きずられ、更に押し倒される。制服のスカートが大きく持ちあがり、自分の視線から下着が見えた。

「きゃあ!! ち、ちょっと!!」

 スカートを下げてから、馬乗りになる鈴木を押しのけようと、両手で突っぱねると、突然顔だけが近付き、キスされる!!と思って目を瞑った。

「最後まではしない。だから、大人しく脚開け」

「え?」

 言っている意味が分からなくて、驚いて目を開けた拍子に、鼻と鼻が擦れる。

「気持ちよくしてやるだけってことだよ」

 強引に太腿の間に膝を立ててくるので、慌てて脚に力を入れて阻止する。

「ち、ちょっと、何で鈴木さんが……」

 力任せに堅い肩を押しやると手首を軽く掴まれたが、振り払い、更に足をばたつかせた。

 この人力弱いのかもしれないと思わせるほど、あっけなく鈴木は身体を引く。

 麻見は、その隙にごろんとソファの下に転がり落ち、素早く立ち上がってスカートを直してから一息ついた。

「何で俺って、だから俺が教育するよう任されたんだよ」

「教育って何!?」

「お前がイロとして……、頭の相手ができるように教育するってことだよ。この前はどうせ逃げ回ったんだろ。今は頭も甘い顔してるが、そのうち飽きたらお前、風呂行きだぞ」

「え……」

 鈴木の顔が、冗談ではないことを物語っている。

「六千万、返すアテないんだろ? それを今、イロやることで返させてやるって言ってんだよ。

 うまいこといって頭が飽きればそこで終わるだろうが、逆にキレさせたらこんなもんじゃすまねーぞ。朝から晩まで働いて、誰彼構わず相手して。使い物にならなくなるまで男にまわされるんだよ」

「…………」

 急に、息苦しくなる。

 六千万の借金のこと、やくざの愛人のこと。決して忘れたわけじゃないけれど、なんとなく、軽く済みそうな気がして、この生活に甘んじてて……。

「そういうわけで。脚開け」

「…………」

 だからって、自分から脚を開くって一体何をどうすれば……。

「…………」

 鈴木は溜息を吐くと、壁に向かって歩き出し、スイッチをパチンと押した。途端に、部屋が真っ暗になる。

「足元、気を付けろ」

 暗がりの中、手を握られたと思ったら、ゆっくりソファに押し倒される。さっきの感触とは全く違って、ただ優しい。

「イロといえど、お前は頭の女だ。俺はお前を教育するまでで、最後までヤッたりはしない。分かったら、力抜け」

 ずっと握られた手が少し冷たい。だけど、その手を信用して、すんなり脚の力を抜いてしまう。

「そうだ。ちょっと指で触る程度だよ」

 鈴木は、身体を麻見の横にズラし、腕枕するように右腕で頭を抱えると左指でストッキング越しの膝を軽く撫で始めた。

「早く終わらせるためにも、どこが良いのか教えてくれた方が助かる」

「…………」

 そんなこと言われたって、そんなこと言われたって……。

 指がどんどん上に上がりやがて、スカートの隙間から手を侵入させてこようとする。

 それに素早く反応した麻見は、咄嗟に堅い手を両手で掴んだが、

「話、聞いてたか?」

 耳元で優しくたしなめられ、思わず手の力が抜けた。

 侵入を許した手はそのまま下着の中へと流れ込み、麻見は同時に目を堅く閉じた。何かにつかまらなければソファの下へ落ちてしまいそうで、鈴木の腹の辺りのパーカーを強く握った。

「手はここから動かさない……。お前は目を閉じて集中してればいい」 

 刺激は甘く、切ない。

 目をぎゅっと瞑り、手に力を込める。

 暗闇の中、ぼんやりと夜景の光だけが室内に入り、押し殺した溜息のような快感の吐息が、室内に響く。

「ここ、か?」

 時々確認するその低い声も、耳の中に吹き込んできて、余計意識を集中させる。

 ほぼ同じ所を触られているのに、擦ったり、摘まんだり、あるいは捏ねたり強弱をつけるせいか、まるで飽きもせずに身体は反応してしまう。

「明日、明後日もだ」

 明日も明後日も、そしてその明々後日は葛西本人に抱かれる日で……、想像するだけで、閉じている目に力が入ってしまう。

 鈴木の服を掴んでいる手が物足りなくて、太い腕にしがみついた。

 ソファの表面を泳ぐ足先にも、力がこもってしまう。

「いっ……てもい?」

 言葉にしたが息が途切れたせいで伝わってはいない。

「え?」

 聞き返されたのにも関わらず先に身体が反応し、大きく波打ち痙攣してしまった。

「ふぅー……、……、今何て言った?」

 とても今更言えない麻見は、

「なんでも……ない……」

 余韻に浸っている間、どうしようもなく身体が疼いてしまい、鈴木の腕にしがみつくフリをして、脚も使って抱き着く。

 鈴木の指は、焦らすように、だらしなく開こうとしている濡れたそこの口の周辺をゆっくりと這う。

「…………はぁ」

 ゆっくり、ゆっくり、何度も、何度も。

 一度達したというのにも関わらず、まだ足りないと、身体の中がその堅い指をねだった。

「……っ……」

 言葉にできなくて、その身体を強く抱きしめる。

「……、……」

 しかし、そんなことで、鈴木が気づくわけはない。

 麻見の想いなどに気付くはずもない鈴木は、指の位置をまた、先ほどと同じ中心に戻すと、今度は先ほどより少し力を入れて擦り始める。

「朝までだ……」

 早くも頂点がすぐそばまできている麻見に、その声が少しだけ頭に届く。

「今日は朝まで…………」

 その言葉を聞く前に、自らの声でかき消してしまう。

 声を押し殺すことを忘れたせいで、今度は高い声が随分響いた。

 鈴木の吐息が少し荒くなったことに気付いた麻見は、更に強く脚をかけて抱き着き、両腕を使って身体をぴったりとくっつけた。

 鈴木はごくりと唾を飲みながらも、雰囲気に任せて抱きしめ返すようなマネはせず、あくまでも任務を遂行するかのごとく、再び入口周辺を2本の指で撫でながら囁く。

「もっと利口になれば、本妻も夢じゃない」
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