徹底的にクールな男達

 信用してもらえない悲しさや、やる気を理解してもらえないやるせなさを通り越して、憎かった。

 武之内は常識の範囲内を求めたが、接待だって充分常識の範囲内の筈だ。

 ただ瞬きをするだけで、涙がぼろぼろ零れ落ちていく。

 このまま帰って、仕事も辞めてやろうかと思う。

 だけど、それが常識の範囲内かと問われれば、疑問が浮かぶ。

 常識の範囲内で仕事をする……、つまり、今できる常識の範囲内のこととは、涙を拭いて素早く持ち場に戻ることだ。

 腕時計で時刻を確認する。まだ午後3時の昼食が終わったばかり。

 麻見は涙を拭いて、椅子を跳ね飛ばす勢いで立ち上がった。

 全ては武之内を見返すために。

 レジの現金誤差も、二度としない。

 伝票処理の分からないことも、二度と聞かない。

 お客の対応で自分ができないことも、二度と頼らない。

 武之内の力なしで、自力で一番デキる社員になってやる。

 海外研修も、自力でなんとか勝ち取ってやる。

< 25 / 88 >

この作品をシェア

pagetop