徹底的にクールな男達
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「おっ……す?」
誰にも気付かれない充血した目でぼんやりしている時に限ってこれだ。
「……」
麻見は総伍と目を合せるなり逸らして、カウンターの上に乗せられた商品を手に取る。
「……2580円です」
俯き加減でUSBメモリーのレジを坦々とこなす。
周りの誰も、目のちょっとした充血なんかに気付かなくても、
「泣いた?」
この男だけは気付くのだ。
「…………真面目に仕事してる証拠」
そうだ。だからだ、と心に強く感じてようやく目を合せた。
「……ちょっと出れる?」
話を聞いてくれようとしているのは分かるが、
「今は無理……、他の人が休憩中だから」。
「今夜は? 時間とれる?」
「…………」
鈴木と同棲生活を始めてからというもの、総伍のメールにあまり返信をしていなかった麻見は、さすがに旅行の話が流れたことも謝らなければいけないと、
「うん、とれる」
と、正直に頷いた。
ちょうど鈴木がいない今は、絶好のタイミングだといえる。むしろ、こちらから連絡をとって謝らなければならないくらいの相手であった。
「あ……っそ」
半ば、驚いた総伍はそれでも顔をすぐ元通りに直し、
「何時上がり? 合わせる」
と腕時計を一度見てから、こちらを見た。
「6時上がりだけど……」
「じゃあ6時に駐車場で」
「どこの?」
「ここの、迎えに来るから」
「……5時が定時だっけ?」
おそらく5時が定時だが、普段から残業まみれなので念のために確認した。
「日本全国共通だよ」
総伍は笑って自信満々に答えたが、さすが、ホワイトカラーは常識が違う。