徹底的にクールな男達
♦(10/29)
「お疲れさんです」
『おう、どうよ? もう仕込んだか?』
頭(かしら)の声があまりにも浮きすぎて、その期待に応えられなかった自分がただただ情けなく、言葉が詰まってなかなか出ない。
電話越しだけに顔が見えず、余計に緊張が高まる。
「いえその……、酔い潰れてしまって……」
『ああん?』
カチンとこられても打つ手がないので間髪あけず、
「すみません、せっかく用意してもらった旅行を台無しに……」
『……普段飲まねーのに……、酒の力が必要だったか?』
頭(かしら)は笑いを堪えながら、優しい声でもって許してくれる。
「いえ、家を出て行くという話になりまして」
『えぇ!? 何で?』
予想通り、相当驚いている。だが今の段階では、そこに怒りが込められているかどうかは微妙だ。
「私も酔っていて記憶が曖昧なのですが、少し気に障ることがあったらしくて……。気をつけてたつもりなんですが、すみませんでした」
『……ま仕方ねぇや。んなもん気をつけてたってどうにもこうにも……で、ほんとに出て行くつもりなのか?』
「いや……今朝は普通に仕事に行きましたが」
『手ぇ握って、キスして「可愛い」って言っとけ』
頭(かしら)は何がおかしいのか、1人笑った。
「……はあ……」
『まあ、他に女なんていくらでもいるさ。一番近くにいる女がアイツってだけで、ただ可能性が高いだけだ。……俺のことは気にするな』
そう言われると、
「……はい……」
以外の言葉が出ない。
『俺はもうお前に譲ったんだよ。後のことはお前に任せる。マンションは好きにしろ』
「…………はい」
『ま、結婚祝いのつもりだったがそうなりゃ仕方ねぇ。いくら腕がよくても、どうにもならねえことってのもあるんだよ』