徹底的にクールな男達
 レスエストロゲン患者に対しての補償は国営ホテルの無料チケットで、部屋はダブルルームと決まっている。

 通常サイズのダブルは室内が狭く、あまりゆとりはない。

 ロビーで受付などを全て行い、鍵も自ら開けて入った武之内は、ただ俯いて付いて来ているだけの麻見に不安を感じながら、

「……食事……ルームサービスとる?」

 とカーテンを開けて、解放的な空間を作りながら聞いた。

「………いえ、……あんまり夜食べないし」

「あそう。じゃあ俺だけ頼もうかな」

 腹が減っていたので、電話機の隣に置かれていた冊子を手に取り、まずはめくろうとすると、

「あの、聞きたいんですけど」

 麻見はようやくまともに声を出した。入口で靴を履き、コートも脱がずに突っ立ったままだが。

「うん、何?」

 俺も顔を上げて、目を見た。

「あの、病気が治ったら、レジに行けますか?」

「……、どのくらいで治るのかは全く分からないけど、無理せずシフト通り来られそうならね。今までは無理してたんじゃないの? 」

「…………、自分では分かりません」

 なら、自覚するべきだと続ける。

「僕が見てるに、気分の浮き沈みが激しいね。そういうのはお客さんに伝わるから。まあ、そこが変われば一番いいけど」

「……………………そういうの、周りの人から言われたことありません」

「あそう? 僕はわりと感じるけど」

「……でも、だってそれは……、だって、武之内店長は、いつもなんか…………」

「僕が感じるということは、周りも感じてると思う。言わないだけで」

「じゃあ早くしましょうよ。ご飯なんか食べてないで!」

 そういうとこなんだけどな、と若干カチンときたので、

「そんなとこ突っ立って言うセリフ? じゃあ僕ご飯食べずに待ってるからシャワー浴びて準備してよ。浴びないでいいの?」

 睨んで言うと、表情が固まった。

「…………、し、シャワーは浴びてきました」

「あそう」

 俺は冊子を棚に戻して、入口まで大股で行くと、その白く細い手首を掴んだ。

 途端に顔色が変わり、動かなくなる。

「…………、靴、脱いで」

 手を払うかと思いきや、言われるがままに、その場で黄色いハイヒールを脱ぐ。

「俺は麻見が体調悪いから、協力するだけだから。

 そこを勘違いしないように」

「…………は……い……」

 俯いた口から出た返事は、震えていた。

 俺はそっと掴んでいた手首を離した。

「……な、何したらいいですか……」

 声が小さくて聞き取れず、

「え?」

 聞き返して顔を寄せた。

「裸でそこに寝たらいいですか?」

 唐突にそんなことができるようなタマじゃないことくらい、分かっている。俺は息を吐いてから、

「…………、そんなこと無理でしょ? できるの? 」

「…………やれば、できます」

「あのさ、ここにリラックスしに来てるんだから」

「…………はい……」

「…………、とりあえず、僕はシャワー浴びてくるよ。麻見が言うように、ここで突っ立ってても仕方ないから」

 嫌味を込めて言ったのが少しは伝わったか、麻見はバツが悪そうに下を向いた。



 はあ…………、頭が痛い。

 武之内は頭から乱雑に熱いシャワーを浴びながら、一日の疲れと汚れを落とす。というよりは、これから降りかかろうとしている疲れを浴びるために、身体を清めていた。

 麻見は本当に……ふざけた奴だ。

 責務だとサインをしたが、やはり病気になるくらいの人物なだけあって、素人では無理なのかもしれない。

 話がなかなかかみ合わないし、自分勝手だし。ここまで乗せて来てやった礼もなければ、そもそも、協力してもらっているという感謝の意識もない。

 どちらかといえば、無理矢理連れて来られて困っているといった感じで、現状とは全く逆の方向に走っている。

 これでは彼氏もできないはずだ。呆れられるのだろう。

 唯一外見は美人だが、ここまで中身がずれてくると、関わりたくなくなる。

 いくら乱れられても、その気になれないかもしれない、と溜息を吐く。

 しかし、サインをしてしまった以上、とりあえずはどのようにかしてリラックスさせないといけない。

 別に己自身を使わなくとも、道具や指で充分にリラックスさせられるし。

 ローションでマッサージでもして終わらせればな、と思いつく。

しかし、今日は準備がない。なかなか面倒だが、今はとりあえず乗り切るしかない。



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