徹底的にクールな男達
3月
間接的な告白(武之内視線)
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(3/6)
麻見が二週間休んでいる間、人員の補助応援を本社に申請したが、通らなかった。
麻見などそもそも不必要と思われているのか、俺自身の腕を試されているのか、ただ単に応援に出せるような人員がいなかったのか、何なのかははっきりしない。
だが、麻見に関わらないで済むこの二週間は自分の中では貴重な物だった。関わっていると、話がかみ合わないことが多く、今回のアフターピルの件も結局行き違いでこんな事態にまで発展してしまっていたので、一歩進んで三歩下がるような思いだった。
ただ、前回キスで慰め、そのが具合が良かったおかげか、今のところはおとなしくしているが、どちらにせよ麻見が察した通り、サインをしないわけにはいかなかった。
本社から推薦されて、それを蹴るということは、次に推薦人を探す手間をかけさせるということである。本社側の思いを知れば、とにかく行政、患者の気を静めるために、仕方のないことであった。
しかし、いつ治るともしれない病気を一生面倒診るわけにもいかない。
従って、適当に相手を見繕ってやったりもしなければならないだろうし。麻見くらいの年齢で事を理解してくれそうな奴……。
「あれ」
「どうしたんですか、武之内店長」
たった今、カウンターの中にある店舗用パソコンで営業マニュアルの一部が変更になり、差し替え分を印刷しようとして思い出した。
隣で何やら調べものをしている福原の存在を。
「な、なんスか」
無意識に数秒目を合せてしまっていたので、福原は気持ち悪そうに一歩引いた。
「いや、ちょっと……」
「麻見が二週間いないとなると結構大変でしたね」
「うん……応援がいなかったからね」
「体調悪いんですか?」
いいタイミングだな。
武之内は周りに人がいないのをいいことに、
「聞いてない?」
と聞き返した。
「とりあえずメールは送りましたが、返信ないままで……」
「あそう……」
以前従業員通用口で福原が麻見のことを彼女だとほのめかしていたことを今更になって思い出したが、やはり、そういうわけではなさそうだ。麻見の顔が明らかに福原を邪鬼にしたことを、今も思い出せる。
武之内は思い出した福原の存在を、一旦忘れることにする。
「武之内店長は何か、相談受けました?」
「…………」
武之内は一瞬迷ったが、
「個人的なことだからあまり言えないけど体調が悪いのは確か」
「へえ。妊娠とかですか?」
予想だにしない質問に、一瞬で身体が熱くなるほどドキッと心臓が鳴った。
「……本人に聞いたら?」
「なんか……それっぽいですね。顔に出てますよ。付き合ってるのバレたらどうしようって」
なんだこいつは?
さすがに冗談の範囲を超えている。
武之内は作業の手を止めて、福原を睨んだ。
「まあ麻見さんは前から武之内店長のこと好きだったからな。俺なんかが今更メール送ったって仕方ないんでしょーけど」
目を合せようともしない福原から出てきた言葉で、怒りが一瞬にして鎮んでいく。
って一体……どういう……。
「仕事中もずっと目で追ってるし、近寄ったら緊張して別人みたになってるし。俺、最初に『武之内店長は多分結婚してる』って言ったんだけどなあ」
「僕は独身だけど」
無心で訂正する。
「みたいですね。僕はガセネタを麻見さんに教えちゃったみたいで」
福原はその言葉を最後に、フェードアウトして売り場に戻って行く。
麻見が俺を……。
そんなこと、思いもしなかった。
だけど、今考えてみたら……。
そんな気がしないでもない。
あの時だって、処女みたいにガチガチに固まっていた癖に、実際身体の方はそうではなさそうだった。
でも、それだとしたら妊娠したかもしれないという時点で喜んでも良さそうだが……。
いや、さすがに妊娠となれば急か。
いやでも、え…………。
「固まってますよ」
いつの間にか再び隣にいた福原が、こちらを見て薄ら笑った。
「うん……。来月の予算がちょっとね」
それらしいことで誤魔化してはみたが、パソコンの画面がまだ営業マニュアルままでさきほどから全く進んではいない。福原は小馬鹿にしたように笑って、さっと去って行く。
麻見が……俺を……?
麻見が…………、麻見が……。
(3/6)
麻見が二週間休んでいる間、人員の補助応援を本社に申請したが、通らなかった。
麻見などそもそも不必要と思われているのか、俺自身の腕を試されているのか、ただ単に応援に出せるような人員がいなかったのか、何なのかははっきりしない。
だが、麻見に関わらないで済むこの二週間は自分の中では貴重な物だった。関わっていると、話がかみ合わないことが多く、今回のアフターピルの件も結局行き違いでこんな事態にまで発展してしまっていたので、一歩進んで三歩下がるような思いだった。
ただ、前回キスで慰め、そのが具合が良かったおかげか、今のところはおとなしくしているが、どちらにせよ麻見が察した通り、サインをしないわけにはいかなかった。
本社から推薦されて、それを蹴るということは、次に推薦人を探す手間をかけさせるということである。本社側の思いを知れば、とにかく行政、患者の気を静めるために、仕方のないことであった。
しかし、いつ治るともしれない病気を一生面倒診るわけにもいかない。
従って、適当に相手を見繕ってやったりもしなければならないだろうし。麻見くらいの年齢で事を理解してくれそうな奴……。
「あれ」
「どうしたんですか、武之内店長」
たった今、カウンターの中にある店舗用パソコンで営業マニュアルの一部が変更になり、差し替え分を印刷しようとして思い出した。
隣で何やら調べものをしている福原の存在を。
「な、なんスか」
無意識に数秒目を合せてしまっていたので、福原は気持ち悪そうに一歩引いた。
「いや、ちょっと……」
「麻見が二週間いないとなると結構大変でしたね」
「うん……応援がいなかったからね」
「体調悪いんですか?」
いいタイミングだな。
武之内は周りに人がいないのをいいことに、
「聞いてない?」
と聞き返した。
「とりあえずメールは送りましたが、返信ないままで……」
「あそう……」
以前従業員通用口で福原が麻見のことを彼女だとほのめかしていたことを今更になって思い出したが、やはり、そういうわけではなさそうだ。麻見の顔が明らかに福原を邪鬼にしたことを、今も思い出せる。
武之内は思い出した福原の存在を、一旦忘れることにする。
「武之内店長は何か、相談受けました?」
「…………」
武之内は一瞬迷ったが、
「個人的なことだからあまり言えないけど体調が悪いのは確か」
「へえ。妊娠とかですか?」
予想だにしない質問に、一瞬で身体が熱くなるほどドキッと心臓が鳴った。
「……本人に聞いたら?」
「なんか……それっぽいですね。顔に出てますよ。付き合ってるのバレたらどうしようって」
なんだこいつは?
さすがに冗談の範囲を超えている。
武之内は作業の手を止めて、福原を睨んだ。
「まあ麻見さんは前から武之内店長のこと好きだったからな。俺なんかが今更メール送ったって仕方ないんでしょーけど」
目を合せようともしない福原から出てきた言葉で、怒りが一瞬にして鎮んでいく。
って一体……どういう……。
「仕事中もずっと目で追ってるし、近寄ったら緊張して別人みたになってるし。俺、最初に『武之内店長は多分結婚してる』って言ったんだけどなあ」
「僕は独身だけど」
無心で訂正する。
「みたいですね。僕はガセネタを麻見さんに教えちゃったみたいで」
福原はその言葉を最後に、フェードアウトして売り場に戻って行く。
麻見が俺を……。
そんなこと、思いもしなかった。
だけど、今考えてみたら……。
そんな気がしないでもない。
あの時だって、処女みたいにガチガチに固まっていた癖に、実際身体の方はそうではなさそうだった。
でも、それだとしたら妊娠したかもしれないという時点で喜んでも良さそうだが……。
いや、さすがに妊娠となれば急か。
いやでも、え…………。
「固まってますよ」
いつの間にか再び隣にいた福原が、こちらを見て薄ら笑った。
「うん……。来月の予算がちょっとね」
それらしいことで誤魔化してはみたが、パソコンの画面がまだ営業マニュアルままでさきほどから全く進んではいない。福原は小馬鹿にしたように笑って、さっと去って行く。
麻見が……俺を……?
麻見が…………、麻見が……。