徹底的にクールな男達
8/1 前店長を今更尊敬する意味
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「はい、お疲っれ」
手慣れた音頭を取ったのは、もちろん福原部門長だ。
それに続いて女子2人も、
「お疲れさまでーす」
と、奢りの嬉しさから明るく華を添える。
小さな居酒屋の、パーティションで区切られただけの畳のボックス席で、女2人は上司を見つめながら足を崩し、メニューを舐め回すように眺めていた。
「中津川さんは飲まないの? 麻見さんだけ?」
「私、自宅遠いんです。麻見さんは、すぐそこだけど」
おそらく福原には分からないだろうが、沙衣吏は入り口の方向を指さした。
「じゃ遠慮なく飲めるな。って言っても無理すんな。重くてきっと運べねーから」
なんか、カチンとくるなと思いながらも、すぐに運ばれてきたドリンクで全員乾杯する。麻見は少し迷ったが軽い酎ハイにしていた。福原も近いから代行で帰る、とジョッキのビールだ。ただ沙衣吏だけは、少しも乱れずカルピスを手にしている。
「今日忙しかったですね。新店長初出勤日でどんな感じかなと思ってましたけど」
麻見はすぐに思っていることを話題に出した。
「クールな感じだったね」
部門長は実に的確に武之内店長をとらえている。
「そうですか? そんな感じあんまりしませんでしたけど」
隣で沙衣吏が平然と言うのを見て、デキる子とデキない子で分けられているのかもしれない、と即座に思った。
「私は……冷たい感じに思えました」
「元ライバル店から来てるからね」
「えっ、そうなんですか!?」
2人は声を合わせて驚いた。
「うん、リバティからね」
「リバティ……、あの、自由な感じの店の雰囲気と今日の店長の雰囲気が私の中では一致しませんけど。どちらかというと、うちみたいな高級感あふれてる方が合ってる」
「ま、そう思ったから乗り換えたんじゃない?」
部門長の口調はあくまでも軽い。
「独身なんですか?」
部門長が適当に話すなら、こちらも適当にいくというスタンスで話題の方向性を若干変えたつもりが、
「あぁ、やっぱ好みなんだ」
「!!!………」
沙衣吏にさらりと、本当に思いもよらぬことを言われて、思わず首を大きく振り彼女を睨んだ。
「結婚してるよ。盛り上がってるとこ、悪いけど」
盛り上がってもいないのに、と麻見は若干違和感を感じたが、福原はさらりと言い切った。
「わっ、私好みじゃないし」
あえてムスッと顔を作って呟く。
「そう? 背が高くて、色が白くて、クールで冷たくて大人で。理系で爬虫類系?」
「爬虫類……じゃないでしょ? 爬虫類的な匂いはしなかったでしょ?」
「でも好きなタイプは爬虫類じゃなかった?」
「違う!」
「ま、何にせよ従業員相手にするようなタイプじゃないよ。アレは」
福原はどうでもよさそうに、串カツの串をポイと皿の上に捨てた。
「確かに、従業員相手にするような上司もどうかと思いますけどね」
自分でも何に腹が立ったのか分からないが、そう言い切ってスッキリしてやる。
「…………」
別に、店長がそうだとしてもなかったとしても今の私には何も関係ない。
そして、福原の軽いノリも、ダルそうな会話も、嘘っぽい笑顔も、ずっと私には何の関係もない。
「はい、お疲っれ」
手慣れた音頭を取ったのは、もちろん福原部門長だ。
それに続いて女子2人も、
「お疲れさまでーす」
と、奢りの嬉しさから明るく華を添える。
小さな居酒屋の、パーティションで区切られただけの畳のボックス席で、女2人は上司を見つめながら足を崩し、メニューを舐め回すように眺めていた。
「中津川さんは飲まないの? 麻見さんだけ?」
「私、自宅遠いんです。麻見さんは、すぐそこだけど」
おそらく福原には分からないだろうが、沙衣吏は入り口の方向を指さした。
「じゃ遠慮なく飲めるな。って言っても無理すんな。重くてきっと運べねーから」
なんか、カチンとくるなと思いながらも、すぐに運ばれてきたドリンクで全員乾杯する。麻見は少し迷ったが軽い酎ハイにしていた。福原も近いから代行で帰る、とジョッキのビールだ。ただ沙衣吏だけは、少しも乱れずカルピスを手にしている。
「今日忙しかったですね。新店長初出勤日でどんな感じかなと思ってましたけど」
麻見はすぐに思っていることを話題に出した。
「クールな感じだったね」
部門長は実に的確に武之内店長をとらえている。
「そうですか? そんな感じあんまりしませんでしたけど」
隣で沙衣吏が平然と言うのを見て、デキる子とデキない子で分けられているのかもしれない、と即座に思った。
「私は……冷たい感じに思えました」
「元ライバル店から来てるからね」
「えっ、そうなんですか!?」
2人は声を合わせて驚いた。
「うん、リバティからね」
「リバティ……、あの、自由な感じの店の雰囲気と今日の店長の雰囲気が私の中では一致しませんけど。どちらかというと、うちみたいな高級感あふれてる方が合ってる」
「ま、そう思ったから乗り換えたんじゃない?」
部門長の口調はあくまでも軽い。
「独身なんですか?」
部門長が適当に話すなら、こちらも適当にいくというスタンスで話題の方向性を若干変えたつもりが、
「あぁ、やっぱ好みなんだ」
「!!!………」
沙衣吏にさらりと、本当に思いもよらぬことを言われて、思わず首を大きく振り彼女を睨んだ。
「結婚してるよ。盛り上がってるとこ、悪いけど」
盛り上がってもいないのに、と麻見は若干違和感を感じたが、福原はさらりと言い切った。
「わっ、私好みじゃないし」
あえてムスッと顔を作って呟く。
「そう? 背が高くて、色が白くて、クールで冷たくて大人で。理系で爬虫類系?」
「爬虫類……じゃないでしょ? 爬虫類的な匂いはしなかったでしょ?」
「でも好きなタイプは爬虫類じゃなかった?」
「違う!」
「ま、何にせよ従業員相手にするようなタイプじゃないよ。アレは」
福原はどうでもよさそうに、串カツの串をポイと皿の上に捨てた。
「確かに、従業員相手にするような上司もどうかと思いますけどね」
自分でも何に腹が立ったのか分からないが、そう言い切ってスッキリしてやる。
「…………」
別に、店長がそうだとしてもなかったとしても今の私には何も関係ない。
そして、福原の軽いノリも、ダルそうな会話も、嘘っぽい笑顔も、ずっと私には何の関係もない。